テラー博士の恐怖
DR. TERROR'S HOUSE OF HORRORS
がい骨 THE SKULL
(未公開)PARANOIAC
作曲:エリザベス・リュティエンス
Composed by ELIZABETH LUTYENS
指揮:フィリップ・マーテル(「テラー博士の恐怖」「がい骨」)
Conducted by PHILIP MARTEL (DR. TERROR'S HOUSE OF HORRORS, THE SKULL)
(米Dragon's Domain Records / DDR812)
「人類SOS!」(1962)「フランケンシュタインの怒り」(1964)「残酷の沼」(1967)「帰って来たドラキュラ」(1968)「(未公開)魔界からの招待状」(1972)等のフレディ・フランシス(1917〜2007)が監督し、イギリスの作曲家エリザベス・リュティエンス(1906〜1983)が音楽を担当したホラー映画3作品のスコアを集めたコンピレーション(アルバムのタイトルは「THE
GOLDEN AGE OF HORROR VOL.1」)。いずれもサントラ音源は初リリース(「がい骨」のスコアは過去に新録音盤CDがリリースされていた)で、限定プレス。
「テラー博士の恐怖(DR. TERROR'S HOUSE OF HORRORS)」は、1965年製作のイギリス映画。出演はピーター・クッシング、クリストファー・リー、ドナルド・サザーランド、バーナード・リー、ジェレミー・ケンプ、マイケル・ゴーフ、ニール・マッカラム、アーシュラ・ハウェルズ、ピーター・マッデン、ケイティ・ワイルド、アラン・フリーマン、アン・ベル、フィービー・ニコルズ、ロイ・キャッスル、ケニー・リンチ、クリストファー・カーロス、ジェニファー・ジェイン、マックス・エイドリアン、ハロルド・ラング、エドワード・アンダーダウン他。脚本はミルトン・サボツキー。撮影はアラン・ヒューム。製作はマックス・J・ローゼンバーグとミルトン・サボツキー。
イギリスのホラー専門スタジオ、アミカス・プロダクションズ製作のオムニバス・ホラー映画で、「狼男(Werewolf)」、「忍び寄る蔓(Creeping
Vine)」、「ヴードゥー(Voodoo)」、「切断された手(Disembodied Hand)」、「吸血鬼(Vampire)」の5話で構成されている。片田舎を走る汽車の客室に乗り合わせた5人の男たち:建築士のジム・ドーソン(マッカラム)、旅行帰りのビル・ロジャース(フリーマン)、演奏家のビフ・ベイリー(キャッスル)、医師のボブ・キャロル(サザーランド)、美術評論家のフランクリン・マーシュ(リー)。そこに形而上学者のシュレック博士(クッシング)なる人物が乗り込んで来る。博士は未来を占うことができると言い、タロットカードで5人の未来を占い始める。博士の予言する未来では、彼らは想像を絶する悲惨な最期を遂げることになっていた……。個人的に大好きなジャンルで、実に楽しい。日本でのテレビ放映時の吹替キャストはピーター・クッシング(槐柳二)、クリストファー・リー(小林恭治)、ドナルド・サザーランド(山田康雄)、バーナード・リー(緑川稔)、ジェレミー・ケンプ(加藤精三)、マイケル・ゴーフ(上田敏也)、ニール・マッカラム(田中信夫)、アーシュラ・ハウェルズ(来宮良子)、ピーター・マッデン(北村弘一)、ケイティ・ワイルド(武藤礼子)、アラン・フリーマン(羽佐間道夫)、ロイ・キャッスル(広川太一郎)、ジェニファー・ジェイン(武藤礼子)、マックス・エイドリアン(加藤精三)他。
エリザベス・リュティエンスのスコアは、「Main
Title / Strangers on a Train」が ダークで陰鬱かつミステリアスなタッチのメインタイトル。「The
Werewolf」は、牧歌的でジェントルな主題からダークでサスペンスフルなタッチへ。「The
Creeping Vine」は、フルートをフィーチャーしたジェントルな主題からダークで不吉なタッチへ。「The
Disembodied Hand」は、パーカッシヴで不吉なサスペンス音楽。「The
Vampire」は、ジェントルでリリカルな主題からミステリアスで不吉なタッチへ。「End
of the Line」は、ダークなサスペンス調によるエンディング。最後にサスペンスフルな予告編音楽「Dr.
Terror's House of Horrors Theatrical Trailer」を収録。基になった音源テープの制約から、一部効果音が含まれている。
「がい骨(THE SKULL)」は、1965年製作のイギリス映画(日本公開は1966年8月/DVD発売時の邦題は「ザ・スカル
サド侯爵の頭蓋骨」)。出演はピーター・クッシング、パトリック・ワイマーク、ジル・ベネット、ナイジェル・グリーン、パトリック・マギー、ピーター・ウッドソープ、マイケル・ゴーフ、ジョージ・クールーリス、エイプリル・オルリッチ、モーリス・グッド、アンナ・ポーク、フランク・フォーサイス、ポール・ストックマン、ジェフリー・チェシャイア、クリストファー・リー他。アルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」(1960)の原作者として知られる恐怖小説作家ロバート・ブロック(1917〜1994)の短編小説『The
Skull of the Marquis de Sade』を基に、ミルトン・サボツキーが脚本を執筆。撮影はジョン・ウィルコックス。
マルキ・ド・サド侯爵の頭蓋骨を闇ディーラーのアンソニー・マルコ(ワイマーク)から500ポンドで購入するよう持ち掛けられたオカルト研究家・蒐集家の作家クリストファー・メイトランド博士(クッシング)は、それが友人のサー・マシュー・フィリップス(リー)の屋敷から盗まれた物だと知るが、やがてその骸骨の呪いによって徐々に破滅へと追いやられていく……。名優クッシングとリーの抑えた演技が素晴らしい。日本でのテレビ放映時の吹替キャストはピーター・クッシング(川辺久造)、パトリック・ワイマーク(二見忠男)、ジル・ベネット(坂本眸)、ナイジェル・グリーン(矢島正明)、パトリック・マギー(藤本譲)、ピーター・ウッドソープ(青野武)、ジョージ・クールーリス(大久保正信)、エイプリル・オルリッチ(三枝みち子)、モーリス・グッド(徳丸完)、クリストファー・リー(嶋俊介)他。この作品もアミカス・プロダクションズ製作だが、同スタジオは、ロバート・ブロックの短編小説をベースにしたオムニバス・ホラー映画「残酷の沼」(1967)「(未公開)ブラッド・ゾーン」(1971)「(未公開)アサイラム・狂人病棟」(1972)も製作している。
エリザベス・リュティエンスのスコアは、「Main
Title」がダイナミックでサスペンスフルなメインタイトル。「Auction
Purchase」「The Book of the Marquis de Sade」「The Marquis' Curse」は、不吉なタッチのサスペンス音楽。「The
Dealer's Nightmare」「Theft」は、躍動的でダイナミックなサスペンス音楽。「A
Violent Death」は、不吉なタッチから後半オルガンによる荘厳な主題へ。「Bizarre
Assault」は、ダイナミックで不気味なサスペンス音楽。「Panic
Attack and End Titles」は、オルガンによる荘厳な主題から不気味なサスペンス音楽へと展開するエンドタイトル。最後にダイナミックなサスペンス調の予告編音楽「The
Skull Theatrical Trailer」を収録。
「(未公開)PARANOIAC」は、1963年製作のイギリス映画。出演はジャネット・スコット、オリヴァー・リード、シーラ・バレル、モーリス・デンハム、アレクサンダー・デイヴィオン、リリアン・ブラウス、ハロルド・ラング、アーノルド・ダイアモンド、ジョン・ボネイ、ジョン・ステュアート、シドニー・ブロムリー、ローリー・リー、マリアンヌ・ストーン、コリン・タプリー、ジャック・テイラー他。『時の娘』等で知られるイギリスのミステリ作家ジョセフィン・テイ(1896〜1952)の原作を基にジミー・サングスターが脚本を執筆。撮影はアーサー・グラント。
富豪のアシュビー家の家長であるアシュビー氏とその妻が飛行機事故で死亡し、息子のトニー(デイヴィオン)は遺書をのこして崖から飛び降りるが、彼の遺体は見つからなかった。11年後、一家に残されたのはアル中で常に金欠状態の息子サイモン・アシュビー(リード)と、精神不安定な彼の妹エレノア(スコット)、そして彼らに過保護な叔母のハリエット(バレル)だった。サイモンが遺産を全部受け取るまで数週間となった日、死んだと思われていたトニーが突然姿を現す。エレノアは喜ぶが、サイモンとハリエットは彼が偽物ではないかと疑う……。アミカスと並ぶイギリスのホラー専門スタジオ、ハマー・フィルムス製作。
エリザベス・リュティエンスのスコアは、「Main
Title」が不吉でドラマティックなタッチのメインタイトル。「Suspicion」は、オルガンによる荘厳なタッチの曲。「The
Inheritance of Violence」「Fiery Finale」は、不吉なタッチのサスペンス音楽。「Discovery
of Horror」は、ダイナミックなサスペンス音楽。最後にダイナミックなサスペンス調の予告編音楽「Paranoiac
Theatrical Trailer」を収録。本スコアの音楽監督はジョン・ホリングスワース。
これら3作品を監督したフレディ・フランシスは撮影監督としても有名で、「回転」(1961)「エレファント・マン」(1980)「フランス軍中尉の女」(1981)「砂の惑星」(1984)「グローリー」(1989)「ケープ・フィアー」(1991)「ストレイト・ストーリー」(1999)等の撮影を手がけている。
アグネス・エリザベス・リュティエンス(「ラッチェンス」と表記されることもある)は、パリのエコール・ノルマル音楽院とロンドンの王立音楽大学で音楽を学んだクラシック音楽の作曲家。アルノルト・シェーンベルクの十二音技法を基にした“セリエル音楽(Serialism)”による作曲を手がけた。イギリスで初めて長編映画(「Penny
and the Pownall Case」(1948))の音楽を担当した女性作曲家としても知られる。映画音楽作曲家としてのキャリアの初期にはニュース映画やドキュメンタリーを多数手がけている。アミカス・プロダクションズ製作の一連のホラー映画の仕事は、これら作品の頻繁なテレビでの深夜放送により、まとまった額の印税収入を彼女にもたらしたという。1969年には大英帝国勲章のCBEを受勲。1972年にロンドンの女性作曲家としての人生を描いた自伝『A
Goldfish Bowl』を出版。晩年には私的に多くの教え子を取った。「オリエント急行殺人事件」等のスコアで知られるイギリスの作曲家リチャード・ロドニー・ベネットは、学生の頃にリュティエンスと知り合い、非公式な弟子として多大な音楽的・個人的影響を彼女から受けている。
(2025年3月)
Elizabeth Lutyens
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