FILM MAKING IN L.A.: PART 3

 

冒頭のベーカー街のシーンの部屋探しは難航していた。

一緒に脚本を書いていた友人の知り合いがヴィクトリア風の内装の家に住んでいるというので早速彼と出かけて行ったのだが、なんとその家は20世紀フォックス社と既に契約しており、これから「ウィザード」というTVシリーズの撮影に当分の間使うので、どうしても使いたいのならまずフォックスに話してくれという。L.A.には自分の家を映画やTVの撮影の為に提供する人がよくいると聞いていたが、よりによってわれわれがやっと目を付けた家が映画会社との契約下にあったのにはさすがにあきれてしまった。

で、もう知り合いを頼るのは無理と判断して、相棒と二人でその手のヴィクトリア風の小綺麗な家が建ち並ぶエリアに出かけて行き、一軒ずつドアをノックして廻って撮影許可を取りつけるという方法に出た。

「アマチュアの学生映画の撮影に一日だけ使わせてください」とお願いして廻ったのだが、われわれは余程みすぼらしい格好をしていたようで、どこでも相手にされず、さすがに疲れてきたところで、ある家の女性が「そこの丘の上に住んでいる人なら使わせてくれるかも」と教えてくれた。

で、そこへ行ってみると、その瀟洒な造りの建物にはおよそ似つかわしくないラフないでたちの男がいきなり現れたので、「オーナーはいるか?」と尋ねると、自分だという。で、撮影許可を求めると、ラフな格好にふさわしいラフな言い方で「いいよ」と答える。よくよく聞いてみると、なんとこのお兄さんは建築家で、この辺りの家は全て彼がデザインして建てたらしい。で、なぜ撮影をすぐに許可してくれたかというと、彼自身が映画関係者にコネを作りたがっているようで、自分のデザインした家を撮影に使ってほしいからだという。ノン・プロの学生映画なのにと思うが、そこは俳優のケースと同じで、要するに完成した映画のビデオをデモ・テープとして利用して映画会社に売り込みたいのであって、プロであろうがアマであろうがちゃんと撮れていればよいのである。そんなわけでようやくベーカー街の撮影場所が見つかった。

 

ところで、8mmフィルムにはシングル8とスーパー8という2つの方式があるということを知っている人はもはや少ないと思うが、スーパー8の方は米国のイーストマン・コダックが主流なのに対し、日本では一般的にはフジのシングル8の方が広く利用されていて、私の所有していたカメラもシングル8用であった。

余談であるが、私は高校生の時に「スター・ウォーズ」に影響されて作った「スター・チェイス」という特撮映画でフジ・フィルム・コンテストの優秀賞を受賞したことがある。というわけで、愛用のカメラがシングル8だったのにアメリカはスーパー8天下で、シングル8のフィルムを売っている店も現像してくれる所も殆どないという状況だった。

で、映画クラブの物知りの友人に尋ねたところ、シングル8の現像をやっている店が全米で唯一アナハイムかどこかそのへんにあるという記事をどこかで読んだという友人か誰かの話を聞いたことがあるような気がするという。おそろしく頼りない情報ではあったが、電話番号案内で確かめてみると果たしてアナハイムにフジのラボが存在することが判明した。で、早速そこへ出かけてみて、日本から出向されている榎本さんという方と出会い、ついでに現像所の中まで見学させてもらった。

アメリカでシングル8フィルムの現像を取り扱っているのはここしかないので、フィルムを一般のカメラ屋で買うと中にアナハイムの住所を刷り込んだ封筒が同梱されていて、ユーザーは撮影済のフィルムカートリッジをその封筒に入れてアナハイムまで郵送すれば現像されて返送されて来るという便利なシステムになっていた。つまりフィルム自体の代金に現像料と返送料が含まれているわけである。アナハイムのラボでは手作業で50本の8mmフィルムを1本のリールにつないで現像していたが、毎週水曜日にしか現像を行わないと言っていたので、その当時で既にアメリカでのシングル8のユーザーはかなり少なかったのであろう。現在では日本でも8mmフィルムというもの自体がビデオテープにリプレースされて殆ど存在しないことは言うまでもないが、個人的にはなんとも寂しいかぎりである。

 

一方、「DRAMALOGUE」にわれわれが載せた広告を見てこの映画の音楽を書きたいと電話してきた作曲家がいた。名前はジェームズ・アレンといったが、「シルバラード」や「ヤング・シャーロック」等の名作曲家ブルース・ブロートンに師事したことがあるというので大いに期待してデモ・テープを送ってもらうことにした。届いたテープを聴くと大編成のオーケストラ曲から、ピアノ曲、室内楽、シンセサイザー、ジャズと何でも器用にこなすようだが、いまひとつ個性がない。それでも、一応彼に電話してどんな曲を書いてくれるのか聞いてみることにした。

作曲家「SF物のようだがシンセによる電子音楽がいいか、アコースティック音楽がいいのか?」
私「アコースティックに限る」
作曲家「大きなシンフォニーか、小さなアンサンブルか?」
私「大きなシンフォニーに決まっとる」
作曲家「ということは、君にはシンフォニー・オーケストラを組むだけの演奏家を雇う金があるのか?」
私「もちろん無い」
作曲家「・・・・・」
私「・・・・・」
作曲家「要するに、君が言いたいのは小編成の楽団で大きな感じの音を出せということのようだが、その手のやり方は知っているのでなんなら試してみよう」

というような話をしたのだが、結局アレン氏の都合が悪くなって今回の映画には音楽を書いてもらえなくなった。自分の作った映画にオリジナルの音楽を付けてもらうというアイデアは極めて魅力的なものだったので非常に残念であった。


で、ようやく準備が整っていよいよ撮影を開始したのであるが、これからが本当に大変なのであった・・・。

TO BE CONTINUED

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