雨の午後の降霊祭 SÉANCE ON A WET AFTERNOON
(未公開)A DOLL'S HOUSE
(TV)恋の旅路 LOVE AMONG THE RUINS
(未公開/TV)THE CORN IS GREEN
(未公開/TV)THE GLASS MENAGERIE

作曲:ジョン・バリー
Composed by JOHN BARRY

指揮:フェルナンド・ベラスケス
Conducted by FERNANDO VELAZQUEZ

演奏:コルドバ管弦楽団
Performed by Orquesta de Córdoba

(スペインQuartet Records / QR541)

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イギリスの作曲家ジョン・バリー(1933〜2011)が手がけた映画音楽中でも音源が紛失している等の事情でこれまでサントラ盤が出ていなかった5作品のスコアを、リー・フィリップスが新たにリコンストラクトし、オーケストレートした新録音盤。「永遠のこどもたち」(2007)「インポッシブル」(2012)「コロニア」(2015)「怪物はささやく」(2016)等のスコアを担当したスペインの作曲家フェルナンド・ベラスケス(1976〜)がオーケストラを指揮している。CD2枚組となっており、1枚目には「雨の午後の降霊祭」「(未公開)A DOLL’S HOUSE」、2枚目にはアメリカの女優キャサリン・ヘップバーン(1907〜2003)が主演したテレビ映画3本「(TV)恋の旅路」「(未公開/TV)THE CORN IS GREEN」「(未公開/TV)THE GLASS MENAGERIE」のスコアを収録。

「雨の午後の降霊祭(SÉANCE ON A WET AFTERNOON)」は、1964製作のイギリス映画(日本初公開は15年後の1979年6月)。監督は「キング・ラット」(1965)「シャイヨの伯爵夫人」(1969)「シンデレラ」(1976)「インターナショナル・ベルベット/緑園の天使」(1978)等のブライアン・フォーブス(1926〜2013)。出演はキム・スタンレー、リチャード・アッテンボロー、パトリック・マギー、ナネット・ニューマン、マーガレット・レイシー、マリー・バーク、マリア・カザン、ライオネル・ガムリン、マリアン・スペンサー、ゴッドフリー・ジェームズ、ジュディス・ドナー、ロナルド・ハインズ、ハジニ・ビロ、マーク・イーデン、ジェラルド・シム他。マーク・マクシェーン(1929〜2013)の原作を基にブライアン・フォーブスが脚本を執筆。撮影はジェリー・ターピン。製作はリチャード・アッテンボローとブライアン・フォーブス。

ロンドン郊外に住む心霊術師マイラ・サヴェージ(スタンレー)と夫のビル(アッテンボロー)は、毎週水曜日の午後に会員を集めて降霊祭を行っていた。彼らは数年前に生まれたばかりの男の子アーサーをなくしており、マイラはそれ以来心霊術にのめり込むようになっていた。彼らは、富豪のクレイトン氏(イーデン)の一人娘アマンダ(ドナー)を誘拐する計画を立てていた。少女を誘拐し、クレイトンから身代金を摂取した後に、マイラがクレイトンと警察に自発的に協力して心霊術により少女と身代金の在処を伝えることで、自分たちの知名度を上げようと画策しており、少女と身代金はそのまま返す計画だった。ある雨の日の降霊祭の後、彼らは計画実行の準備を進めるが……。1964年度アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、同年のNY批評家協会賞の女優賞(キム・スタンレー)と、英国アカデミー賞の男優賞(リチャード・アッテンボロー)を受賞している。

ジョン・バリーのスコアは、冒頭の「Main Title from Séance on a Wet Afternoon」が、ピアノ、シロフォン、フルートをフィーチャーしたダークでミステリアスなタッチのメインタイトルで、この印象的なメインの主題は「The Room」「Myra Remembers」「Billy Leaves」等でも繰り返される。「The Plan」「The Ransom Letter」「We're Mad」「Arthur's Waiting」は、ミステリアスなタッチの曲。「Kidnapped」「The Drop (Part 1)」「The Drop (Part 2)」「The Drop (Part 3)」は、ジョン・バリーが手がけた「007」シリーズ風の躍動的なサスペンス音楽。「The Prayer / Good Morning, Amanda」は、不吉なサスペンス調からミステリアスなタッチへ。「Mrs. Clayton's Reading / The Woods」は、ジェントルなタッチの曲。「The Final Reading」は、ピアノをフィーチャーしたメインの主題のバリエーション。「Finale from Séance on a Wet Afternoon」は、メインの主題のリプライズによるフィナーレ。オーケストラにハープ、ピアノ、チェレスタを加えた演奏。

「(未公開)A DOLL'S HOUSE」は、1973年製作のイギリス映画。監督は「(TV)白い渡り鳥」(1971)等のパトリック・ガーランド(1935〜2013)。出演はクレア・ブルーム、アンソニー・ホプキンス、ラルフ・リチャードソン、デンホルム・エリオット、アンナ・マッセイ、イーディス・エヴァンス、ヘレン・ブラッチ、キンバーリー・ハンプトン、ダフネ・リッグス、パム・ローズ、マーク・サマーフィールド、ステファニー・サマーフィールド他。『ペール・ギュント』(1867)『民衆の敵』(1882)等のノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン(1828〜1906)の戯曲『人形の家(Et dukkehjem』(1879)を基に、「危険な関係」(1988)「太陽と月に背いて」(1995)「ジキル&ハイド」(1996)「つぐない」(2007)「危険なメソッド」(2011)等のクリストファー・ハンプトン(1946〜)が脚本を執筆。撮影はアーサー・イベットソン。

弁護士のトアヴァルド・ヘルメル(ホプキンス)は年明けから銀行の頭取に就任することになっていたが、クリスマスイヴの日に、その部下となる予定のクロクスタ(エリオット)がヘルメルの妻ノラ(ブルーム)を訪ねてくる。クロクスタはヘルメルと旧知の仲だったが疎まれており、ヘルメルの頭取就任後に解雇される予定で、それを撤回するように働きかけてほしいとノラに請願する。ノラがその頼みを断ろうとすると、クロクスタは彼女が過去に犯した違法行為の証拠を握っていると明かす。かつてヘルメルが重病に陥り金銭が必要になったとき、ノラはクロクスタから借金したが、その際に借用証書の父のサインを偽造したのだった。もし解雇されるなら、この秘密を暴露するとクロクスタに脅されたノラは悩む。ノラはヘルメルにクロクスタの解雇を取り消すよう頼むが、事情を知らないヘルメルは取り合わず、予定通りクロクスタに解雇を通告する……。同じイプセンの戯曲が「人形の家(A DOLL'S HOUSE)」(1922/監督:チャールズ・ブライアント、出演:アラ・ナジモヴァ、アラン・ヘイル)、「人形の家(A DOLL'S HOUSE)」(1973/監督:ジョセフ・ロージー、出演:ジェーン・フォンダ、デヴィッド・ワーナー、トレヴァー・ハワード、エドワード・フォックス)等、何度か映画化されている。

ジョン・バリーのスコアは、彼が作曲した作品中でも最も短いもので、メインタイトル「Main Title from A Doll's House」でのチェレスタ、ハープ、ハープシコード、マンドリン、ピアノによるメランコリックでリリカルなメインの主題が、「The Children」「End Title from A Doll's House」でも繰り返される。「Tarantella」は、劇中ノラがパーティで踊るストリグスによる躍動的なタランテラ。

「(TV)恋の旅路(LOVE AMONG THE RUINS)」は、1975年製作のイギリスのテレビ映画(日本ではビデオ発売済)。監督は「フィラデルフィア物語」(1940)「ガス燈」(1944)「スタア誕生」(1954)「マイ・フェア・レディ」(1964)「ベストフレンズ」(1981)等のジョージ・キューカー(1899〜1983)で、これは彼が初めて手がけたテレビ映画。出演はキャサリン・ヘプバーン、ローレンス・オリヴィエ、コリン・ブレイクリー、リチャード・ピアソン、ジョーン・シムズ、リー・ローソン、グウェン・ネルソン、ロバート・ハリス、ピーター・リーヴス、ジョン・ブライス、アーサー・ヒューレット、ジョン・ダンバー、イアン・シンクレア、メルヴィン・パスコー、コリン・トーマス他。脚本はジェームズ・コスティガン。撮影はダグラス・スローカム。老境にさしかかった女優ジェシカ・メドリコット(ヘプバーン)が契約不履行で訴えられ、彼女はかつての愛人だった弁護士のサー・アーサー・グランヴィル=ジョーンズ(オリヴィエ)に弁護を依頼する。ジェシカは気づいていなかったが、アーサーは今でも彼女のことを愛していた。彼女は訴訟に勝って自らの資産を守るには、名声を放棄するしかないと悟るが……。キャサリン・ヘプバーンローレンス・オリヴィエは永年の親友同士だったが、1973年にヘップバーンがテレビのトーク番組「(TV)ディック・キャヴィット・ショー」に出演した際、司会のキャヴィットから「オリヴィエと共演しなかったことを残念に思っていますか?」と質問され、笑いながら「私たち、まだどちらも死んでないわよ。そう思われてるかもしれないけど」と答え、その2年後にこのテレビ映画で共演した。これは2人の唯一の共演作品で、エミー賞の7部門にノミネートされ、6部門(女優賞、男優賞、監督賞、脚本賞、衣装デザイン賞、美術賞)を受賞している。

ジョン・バリーのスコアは、冒頭の「Main Title from Love Among the Ruins」が、ピアノとストリングスによるジェントルでリリカルなワルツ調のメインタイトル。「There She Is」「A Day in Court」は、明るく快活なタッチの曲。「You Look, You Look… / Don't You Remember?」「First Time I Saw You」「Freedom's Prisoner」「Sauerbraten with Egg and Milk」も、ジェントルでリリカルなタッチ。「The Boy Who Loved You」は、ジェントルな主題から後半やや不吉なタッチへ。「I Pray You Know Me When We Meet Again」は、メランコリックでドラマティックなタッチの曲。「The Fire's Gone Out」「Vision of Portia」は、フルートをフィーチャーしたジェントルな曲。「End Title from Love Among the Ruins」は、メインの主題のリプライズによるエンドタイトル。

「(未公開/TV)THE CORN IS GREEN」は、1979年製作のアメリカのテレビ映画。監督はジョージ・キューカーで、彼が手がけたテレビ映画は本作と上記「(TV)恋の旅路」の2本だけで、本作は彼がヘップバーンと組んだ計10本の最後の作品。出演はキャサリン・ヘップバーン、イアン・セイナー、ビル・フレイザー、パトリシア・ヘイズ、アンナ・マッセイ、アートゥロ・モリス、ドロシア・フィリップス、トーヤ・ウィルコックス、ヒュー・リチャーズ、ブリン・フォーン、ダイファン・ロバーツ、ロビン・ジョン他。エムリン・ウィリアムズ(1905〜1987)作の1983年の自伝的戯曲を基にアイヴァン・デイヴィス(ジェームズ・コスティガン)が脚本を執筆。撮影はエドワード・スケイフ。ウェールズの貧しい炭鉱町で、大地主(フレイザー)の反対を押し切って学校を開校した教師リリー・モファット(ヘップバーン)は、生徒の1人であるモーガン・エヴァンス(セイナー)に天才的な素養があることを見出し、オックスフォード大学への入学を目指して熱心に彼を指導する。モーガンは見事にオックスフォード大の奨学金を勝ち取るが、モーガンの子供を産んだばかりの若い女性ベッシー・ワティ(ウィルコックス)がそのことを聞きつけ、子供の養育費として奨学金の一部を支払えと脅してくる……。1979年度エミー賞の主演女優賞と衣装デザイン賞にノミネートされた。同じ原作戯曲が「小麦は緑(THE CORN IS GREEN)」(1945/監督:アーヴィング・ラパー、出演:ベティ・デイヴィス、ジョン・ドール)として映画化されている。

ジョン・バリーのスコアは、冒頭の「Main Title from the Corn Is Green」が、ジェントルでリリカルなタッチのメインタイトルで、このメインの主題は「Going to See the Squire」「Morgan Upset」等でも登場する。「First Look / Get the Rights」「Reflection」「The Lady Gets a Baby」「Morgan Decides」は、フルートをフィーチャーしたジェントルな曲。「Morgan Dreams」「Enraged Morgan」は、ドラマティックでサスペンスフルなタッチの曲。「Good Day, Sir」「First Composition」「Two Year Birthday」「Lady Moffat Studies」「To the Squire, Again」「How Kind You Are」「Moffat Alone」「Off You Go」も、ジェントルでリリカルなタッチの曲。「Morgan Enrolls」は、フルートによるジェントルな主題から後半明るく躍動的なタッチへ。「Moffat Home」は、メランコリックなタッチの曲。「I Don't Understand You」は、フルートをフィーチャーした不吉なタッチの曲。「To Oxford」は、トランペット・ソロを加えたジェントルな曲。「End Title from the Corn Is Green」は、フルートをフィーチャーしたメインの主題のリプライズによるエンドタイトル。このスコアと「(TV)恋の旅路(LOVE AMONG THE RUINS)」のスコアは、いずれもストリングス、木管楽器、ピアノ、ハープシコードをフィーチャーしており、印象が似ている。

「(未公開/TV)THE GLASS MENAGERIE」は、1973年製作のアメリカのテレビ映画。監督は「冬のライオン」(1968)「ウィンブルドン 愛の日」(1979)「(未公開)イーグルス・ウィング」(1979)「(TV)パトリシア物語」(1981)「(TV)スヴェンガリの魔力」(1983)等のアンソニー・ハーヴェイ(1930〜2017)。出演はキャサリン・ヘップバーン、サム・ウォーターストン、ジョアンナ・ミルズ、マイケル・モリアーティ他。テネシー・ウィリアムズ(1911〜1983)の1944年作の戯曲『ガラスの動物園(The Glass Menagerie)』を基にステュワート・スターンが脚本を執筆。撮影はビリー・ウィリアムズ。1930年代のセントルイス。夫に捨てられたアマンダ・ウィングフィールド(ヘップバーン)は、独善的な南部女気質で息子トム(ウォーターストン)と娘ローラ(ミルズ)を支配していた。トムは靴メーカーの倉庫での単調な仕事と、何事にも口やかましく指図するアマンダに対して嫌気がさしており、今の環境から抜け出そうと考えていたが、アマンダはトムを夫の二の舞にさせまいと引き止めようとする。手に職を持たず結婚も出来ない女の行く末を今まで数多く見てきたアマンダは、内気な性格のローラの現状に危機感を抱いていた。彼女に男性との出会いの機会を与えるために、アマンダはトムに会社の同僚ジム・オコナー(モリアーティ)を夕食に招くよう頼むのだった……。エミー賞の主演女優賞と助演男優賞(ウォーターストン)にノミネートされ、助演男優賞(モリアーティ)と助演女優賞(ミルズ)を受賞。テネシー・ウィリアムズの自伝的戯曲はアメリカ文学の最高峰とも考えられており、劇場用映画として「ガラスの動物園(THE GLASS MENAGERIE)」(1950/監督:アーヴィング・ラパー、出演:ジェーン・ワイマン、カーク・ダグラス、アーサー・ケネディ)、「ガラスの動物園(THE GLASS MENAGERIE)」(1987/監督:ポール・ニューマン、出演:ジョアン・ウッドワード、ジョン・マルコヴィッチ、カレン・アレン)と2度映画化されている。

ジョン・バリーのスコアは、ピアノ・ソロ用に作曲されたもので「Main Titles from the Glass Menagerie」「An Old Maid / Father's Charm」「The Argument / A Nailed-Up Coffin」「Laura's World」「The Unicorn」「Goodbye」と、いずれもリリカルで美しいタッチの曲が展開(主としてローラを描写した主題)。サントラ音源では、バリーが自らあまり得意ではないとのピアノを弾いていたが、この新録音盤ではシルヴィア・ムクルチアンがピアノを演奏している。

(2024年3月)

John Barry

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