戦慄の調べ HANGOVER SQUARE
五本の指 5 FINGERS

作曲・指揮:バーナード・ハーマン
Composed and Conducted by BERNARD HERRMANN

(米Kritzerland / KR 20030-1)

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バーナード・ハーマン(1911〜1975)が手がけたサスペンス映画のスコア2作品をカップリングにしたCD。

「戦慄の調べ(HANGOVER SQUARE)」は、1945年製作のアメリカ映画(日本公開は1950年12月)。監督は「氷上の花」(1943)「謎の下宿人」(1944)「ハルコア号の冒険」(1955)「暴走52マイル」(1966)等のジョン・ブラーム(1893〜1982)。出演はレアード・クリーガー、リンダ・ダーネル、ジョージ・サンダース、グレン・ランガン、フェイ・マーロウ、アラン・ネイピア、ハリー・アレン、ラドフォード・アレン、ジミー・オーブリー、J・W・オースティン、ウィルソン・ベンジ、フランク・ベンソン、テッド・ビリングス、クリフォード・ブルック、ボブ・バーンズ他。「ガス燈」(1944)「ロープ」(1948)等のパトリック・ハミルトン(1904〜1962)の原作を基にバルレ・リンドンが脚本を執筆。撮影はジョセフ・ラシェル。20世紀初頭のロンドン。気鋭の若手作曲家ジョージ・ハーヴェイ・ボーン(クリーガー)は、恋人であるバーバラ(マーロウ)の父で高名な指揮者サー・ヘンリー・チャップマン(ネイピア)の依頼により、ピアノ協奏曲の作曲に取り組んでいた。しかし、ボーンには不協和音を聴くと気を失ってしまうとの症状があり、最近起きた殺人事件は無意識のうちに自分が犯したものではないかと考えていた。スコットランド・ヤードに勤務する精神科医のアラン・ミドルトン博士(サンダース)に相談したボーンは、博士の勧めで気分転換にミュージックホールへと出かけ、ダンサーのネッタ・ロングドン(ダーネル)と知り合う。ボーンがネッタのために作曲した歌がヒットとなり、ネッタに夢中になったボーンは協奏曲の仕事を放り投げて彼女の歌の作曲に専念するが……。

バーナード・ハーマンは、劇中でボーンが作曲し、クライマックスで演奏するピアノ協奏曲『Concerto Macabre』を中核にした重厚なスコアを展開。「Main Title / Fulham Waltz and The Dealer」は、ピアノとオーケストラによるドラマティックでダイナミックな主題(協奏曲の第一楽章)からダークなタッチのサスペンス音楽へと展開するメインタイトル。「Murder and Fire」は、ビジーなサスペンスアクション音楽から抑制されたタッチへ。「Confession」「The Clock and The Knife」「Barbara」「The Cat and Netta's Death」は、ダークで抑制されたタッチの曲。「So Close to Paradise」は、静かにドラマティックな曲で、この曲のみライオネル・ニューマンが作曲している。「The Spell」「Second Spell」は、不気味なサスペンス音楽。「The Murder」は、ビジーでダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Fame and Anger」は、ジェントルな主題から快活なワルツへ。「The Bonfire」は、ダイナミックなサスペンス音楽。「Recovery and The Invitation」は、抑制されたタッチからロマンティックな主題へと展開。「Concerto Macabre: First Movement」は、協奏曲の第一楽章で、ドラマティックでダイナミックなイントロからメランコリックなタッチ、ドラマティックな主題へと展開。第二楽章「Concerto Macabre: Second Movement」は、ビジーでサスペンスフルなタッチからドラマティックな主題へ。「Coda」は、オーケストラによる壮大なコーダ。「Concerto Macabre: The Lost Movement」は、ダークでドラマティックな“失われた楽章”。

「五本の指(FIVE FINGERS)」は、1952年製作のアメリカ映画。監督は「幽霊と未亡人」(1947)「イヴの総て」(1950)「ジュリアス・シーザー」(1953)「クレオパトラ」(1963)「大脱獄」(1970)「探偵<スルース>」(1972)等のジョセフ・L・マンキーウィッツ(1909〜1993)。出演はジェームズ・メイソン、ダニエル・ダリュー、マイケル・レニー、ウォルター・ハンプデン、オスカー・カールワイズ、ハーバート・バーゴフ、ジョン・ウェングラフ、ベン・アスター、ロジャー・プロウデン、ダイアン・エイドリアン、ハンネロール・アクスマン、サルヴァドール・バゲ、モーリス・ブリエール、アレクシス・ダヴィドフ、ローレンス・ドブキン他。ドイツの元トルコ駐在大使館員L・C・モイズイッシュの原作(実話)『Operation Cicero』を基にマイケル・ウィルソンが脚本を執筆。撮影はノーバート・ブロダイン。第二次大戦中、中立国トルコに駐在する英国大使の執事ユリシーズ・ディエロ(メイソン)は、機密書類を小型カメラで撮影しては、“シセロ”の偽名を使ってネガをドイツ大使館武官モイズィッシュ(カールワイズ)に売りつけていた。ディエロは、かつて執事として仕えたスタヴィスカ伯爵の未亡人アンナ(ダリュー)を味方につけ、彼女をモイズィッシュとの機密の売買に当たらせた。一方、機密漏洩に気づいた英国は、諜報員コリン・トラヴァース(レニー)をアンカラに派遣する。危険を察知したディエロは、アンナとともにスイスへ逃亡する準備を始めるが……。監督のマンキーウィッツは、トルコでの撮影中に実在の“シセロ”ことエリエサ・バズナに会い、バズナからテクニカル・アドヴァイザーとして協力したいとの申し出を受けたが、断ったという。1952年度アカデミー賞の監督賞と脚色賞にノミネートされ、同年のゴールデン・グローブの脚本賞を受賞。後に「(TV)スパイ/五本の指」(1959/監督:ラモント・ジョンソン、出演:デヴィッド・ヘディソン、ルチアナ・パルッツィ)としてテレビシリーズ化されている。

バーナード・ハーマンのスコアは、冒頭の「Prelude」がドラマティックでサスペンスフルな前奏曲。「Cicero」は、ストリングスによるスリリングなイントロからダークなタッチへ展開する曲。「The Embassy」は、ダークで気だるいタッチのサスペンス音楽。「The Film」「The Old Street」「The Trap / The House」「Alone」「The Charwoman」は、抑制されたサスペンス音楽。「German Embassy / Berlin」は、エキゾチックなタッチの主題。「The Safe」は、静かにドラマティックな曲。「Dreams」「Romance」は、ジェントルでロマンティックな曲。「Five Weeks」「Departure」は、ダークなサスペンス音楽。「Escape」「The Pursuit」「The Boat」は、重厚でダイナミックなサスペンスアクション音楽で、まさに“ヴィンテージ・ハーマン”。最後の「Finale」は、ドラマティックでサスペンスフルなフレーズから壮大に締めくくるフィナーレ。

この2作品のスコアは米Varese Sarabandeレーベルが限定リリースしたCD14枚組のボックスセット「Bernard Herrmann at 20th Century Fox」にも収録されていたが、「戦慄の調べ」は8曲から17曲に収録曲が増えており、CD全体も新たにマスタリングし直されている。1000枚限定プレス。
(2015年11月)

Bernard Herrmann

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