(未公開)最後のサムライ/ザ・チャレンジ THE CHALLENGE

作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH

(ベルギーPrometheus / PCR 505)


「五月の七日間」(1963)「大列車作戦」(1964)「グラン・プリ」(1966)「フレンチ・コネクション2」(1975)「(未公開)ブラック・サンデー」(1977)等の社会派サスペンスアクションの名手ジョン・フランケンハイマー監督が、1982年に撮ったアクション。出演はスコット・グレン、三船敏郎、中村敦夫、ドナ・ケイ・ベンツ、カルヴィン・ユン、クライド・クサツ、サブ・シモノ他。脚本は、「エイト・メン・アウト」「宇宙の7人」「アリゲーター」等のジョン・セイルズと、リチャード・マックスウェルが担当。撮影は岡崎宏三。

ボクサーのリック(グレン)は、ある日本人より一振の日本刀をL.A.から京都へ運ぶ仕事を請け負ったことで、この刀をめぐる日本人兄弟の血で血を洗う抗争に巻き込まれて行く・・・。冒頭、「1945年−京都」とのタイトルが出て、武家屋敷の中庭に着物をきた日本人が集まっているまるで時代劇のようなシーンとなり、「またも西洋人監督による誤った日本の描写か」と思わせるが、ここで登場するのが、島田正吾、三船敏郎、中村敦夫という日本の時代劇でよく見かける顔ぶれで、これがフランケンハイマーの撮ったアメリカ映画かと思うと実に奇妙な感じがする。更に、「七人の侍」で三船と共演した宮口精二稲葉義男が、「師範」という役柄で脇を固めるというキャスティングの凝りようである。フランケンハイマーは、ロバート・デ・ニーロ主演の「RONIN」(1998)でも、脇で出てくるミシェル・ロンスダールに赤穂浪士の逸話を語らせたりして日本通(時代劇通?)的なところを見せている(ただ、このロンスダールの意味ありげな台詞が映画のストーリーや登場人物の性格と全く無関係なのには首をかしげてしまったが)。ここでは、三船扮する兄の一派と、中村扮する弟の一派が、島田扮する父から受け継いだ日本刀をめぐって抗争を続けるのだが、主人公のグレンは三船の弟子となり、修行を積んで悪役の中村と対決する。このラストの2人の格闘シーンは結構迫力がある。

私はL.A.に留学していた際に、知人の紹介でこの映画の「Martial Arts Co-ordinator」を担当したという、関西弁の日本語を喋るアメリカ人に会いに行ったことがある。その人物は、この映画の撮影当時大阪に住んでいて、ハリウッドから来たスタッフに色々と協力したらしいが、私が会った時にはL.A.で合気道の道場を運営しており、「今度ワーナーが製作する刑事アクション映画に出演するんだ」と語っていた。それが、「刑事ニコ・法の死角」でデビューする前のスティーヴン・シガールで、私は彼が後にこれほど有名になるとは予想しなかった。

ジェリー・ゴールドスミス作曲のスコアは、ミステリアスなタッチの「Main Title」や、「Interlude」「Bamboo Forest」等での、尺八や琴をオーケストラと組み合わせた日本的なサウンドが、同じく日本を舞台にした「トラ!トラ!トラ!」での彼のスコアにも通ずるものがある。エキゾチックな雰囲気を表現しながらも、決して奇妙な印象はなく、そのSubtletyが絶妙である。しかし、このスコアの魅力は何といっても「The Wrong Sword」「Over the Top / Fish Market」「Double Cross」「The Traitor」「Surprise Visitor / Forced Entry」「"As You Wish"」といったダイナミックなアクションスコアで、ゴールドスミスのトレードマークである緊迫したストリングスと鋭いブラスのたたみかけるような劇伴音楽が素晴らしい。

余談だが、過去に私が自主映画を製作していた時、カーチェイス等のアクションシーンに好んでゴールドスミスの既製スコアを付けていた。この映画を見ると、日本の情景をバックにした追跡シーン等にゴールドスミスのアクションスコアが流れていて、なんだか自分が過去に作った映画のワンシーンみたいで強烈なデジャ・ヴを覚える。

この作品は、ゴールドスミスが「ポルターガイスト」「ランボー」「アンダー・ファイア」といった傑作スコアを手がけていた時期に作曲されており、ファンの間でもアルバム化が強く望まれていたスコアの1つだった。このベルギーのPrometheusレーベルによるCDは、3000枚限定プレスの貴重なリリースである。
(2000年5月)

Jerry Goldsmith

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