アルゴ探検隊の大冒険 JASON AND THE ARGONAUTS

作曲: バーナード・ハーマン
Composed by BERNARD HERRMANN

指揮: ブルース・ブロートン
Conducted by BRUCE BROUGHTON

演奏: シンフォニア・オブ・ロンドン
Performed by the Sifonia of London

(米Intrada / MAF7083)

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1963年にイギリスで製作されたファンタジー冒険活劇の傑作。ドン・チャフィが監督し、トッド・アームストロング、ナンシー・コヴァック、ゲイリー・レイモンド、オナー・ブラックマン他が出演した。脚本はジャン・リードとビヴァリー・クロス、撮影はウィルキー・クーパーが担当。

しかしこの映画に関しては監督や出演者はあまり重要ではなく、次の3人の職人たちのコラボレーションによる名作としてSF・ファンタジー映画ファンの間で永く語り継がれている。つまり、プロデューサーのチャールズ・H・シニア(Charles H. Shneer)、特殊撮影のレイ・ハリーハウゼン(Ray Harryhausen/この映画では製作も担当)、そして音楽のバーナード・ハーマン(Bernard Herrmann)の3人である。

彼らは、この「アルゴ探険隊の大冒険」以前に、「シンドバッド七回目の航海」(1958)、「(未公開)ガリバーの大冒険」(1960) 、「(未公開)SF 巨大生物の島」(1961)といったファンタジー映画を製作しており、いずれも“センス・オブ・ワンダー”に満ち溢れた冒険活劇の傑作だった。

「アルゴ探険隊の大冒険」は、この3人のコラボレーションによる代表作と考えられているが、ギリシャ神話をベースにしたストーリーで、幸福をもたらす“黄金の羊の毛皮”を求めて旅立つイアソン(Jason)一行の冒険を描いている。彼らの行く手に、青銅の巨人タロス、七首の竜ヒドラ、怪鳥ハーピー、骸骨剣士といった空想上のクリーチャーが次々と現れ、襲いかかってくるが、これらの怪物に生命を吹き込んだのが、いまや伝説的な特撮職人、レイ・ハリーハウゼンである。

ハリーハウゼンは、上記4作品以前にも、「猿人ジョー・ヤング」(1949)、「原子怪獣現わる」(1953)、「水爆と深海の怪物」(1955)、「世紀の謎・空飛ぶ円盤地球を襲撃す」(1956)といった映画で特撮を担当しているが、彼の専門分野はミニチュアの生物や乗り物等にコマ撮りによって動きを与えるストップモーション・アニメーションの技術である。これは、ミニチュアモデルを少しずつ動かして1コマずつ撮影していき、これに実写で撮影した背景や俳優を合成するという手法で、古くはウィリス・オブライエンが特撮を担当した「キング・コング」(1933)が有名だが、ハリーハウゼンによってユニークな特撮技術として完成の域に達したと言える(彼はこの技術を「ダイナメーション」と呼んだ)。特に「アルゴ探険隊の大冒険」における主人公たちと7体の骸骨剣士との壮絶な戦いは、彼の特撮技術の最高傑作であろう。

このストップモーションの技術は、その後も「スター・ウォーズ」シリーズや「ロボコップ」を担当した名手フィル・ティペットによって引き継がれているが、CGによる恐竜が登場した「ジュラシック・パーク」以降はあまり使われなくなった。スピルバーグは「ジュラシック・パーク」の恐竜をできるだけ実物大のロボットで撮影し、無理な部分はミニチュアによるストップモーションで補おうと考えてティペットを雇ったが、デニス・ミューレン率いるILMのCG部隊がフルCGIによる恐竜のデモをスピルバーグに見せたところ、あまりに出来が良かったため、ストップモーションのシーンは全てキャンセルされてCGに置き換えられてしまった。結果として、あのようなリアルな恐竜が表現できたわけだが、一方で、ハリーハウゼンが最近のインタビューで語っているように、「CGはリアルすぎて、ファンタジー映画がファンタジーでなくなってしまう」という一面も確かにあると思う。

ハリーハウゼンによるファンタジーの世界に、更に“センス・オブ・ワンダー”の強力なパワーを付加しているのが、巨匠バーナード・ハーマンによる血湧き肉躍るシンフォニック・スコアである。神話の世界を舞台にした冒険活劇を描くために、管楽器と打楽器のパートを強化し、通常のシンフォニー・オーケストラに必要とされる数の2倍から4倍の楽器を投入したという。具体的には4本のフルートとピッコロ、6本のオーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バスーン、8本のフレンチホルン、6本のトランペット、トロンボーン、4本のチューバによるパワフルな管楽器群により、極めて重厚なサウンドを実現している。

冒頭のプレリュードは、チューバとティンパニによる船を漕ぐような力強いリズムで始まり、これにホルンによる勇壮なメイン・テーマがかぶさって、聴く者を一気にファンタジーの世界へと引き込んでしまう。更に、タロス、ヒドラ、ハーピー、骸骨剣士といったクリーチャーを独特の楽器編成によるカラフルな表現で描写し、正に劇伴音楽のお手本のような見事なスコアリングを展開するる。ハーマンはオーソン・ウエルズやヒッチコックとのコラボレーションでも有名だが、作曲家としての彼の個性が最もよく表れているのは、ハリーハウゼンと組んだこれらのファンタジー映画のスコアだと思う。

ハーマンによるハリーハウゼン映画の音楽は、「シンドバッド七回目の航海」「ガリバーの大冒険」「SF 巨大生物の島」のサントラCDが既にリリースされているが、この「アルゴ探検隊の大冒険」については、これまでにイギリスのCloud Nineレーベルが1988年に出した上記3作品を含むコンピレーションCD(全てサントラ)に、Preludeと骸骨剣士との戦いのシーンの音楽の2曲が収録されていただけだった。

「Classic Fantasy Film Scores: The 3 Worlds of Gulliver, Mysterious Island, The 7th Voyage of Sinbad, Jason and the Argonauts / Music Composed and Conducted by Bernard Herrmann」(英Clound Nine Records / ACN 7014)

また、ハーマン自身が晩年にナショナル・フィルを指揮した再録音盤にも数曲が含まれており、これは演奏自体は見事だがオリジナルより随分とスローダウンしたテンポになっていた(ハーマンの晩年のリレコーディングは何故か全てスロー・テンポである)。

今回IntradaレーベルがリリースしたCDは、サントラ盤ではなく、オリジナルスコアを基に新規に録音し直したものだが、このリリースによって、初めてこの傑作スコアの全貌を聴くことができるようになった。しかもブルース・ブロートン指揮による演奏は、サントラ盤のテンポに非常に近く、録音までもが当時のドライでリアリスティックなタッチを再現しており、ここまでオリジナルのイメージに忠実なリレコーディング・アルバムはあまりないと思う。

ハリーハウゼンは「アルゴ探検隊の大冒険」以降、ハーマンとはコンビを組んでいない。ハマー・フィルムが製作した「恐竜100万年」(1966)ではマリオ・ナシンベーネ、「シンドバッド黄金の航海」(1973)ではミクロス・ローザ、「シンドバッド虎の目大冒険」(1977)ではロイ・バッド、「タイタンの戦い」(1981) ではローレンス・ローゼンタールが音楽を担当しており、それぞれ見事なスコアだったが、やはりファンタジー冒険活劇に必須である“センス・オブ・ワンダー”の表現力では、ハーマンのスコアを超えるものはないと思う。
(1999年7月)

Bernard Herrmann

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