鷲は舞いおりた  THE EAGLE HAS LANDED

作曲・指揮:ラロ・シフリン
Composed and Conducted by LALO SCHIFRIN

(米Aleph / 009)

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これは日本でも人気のある冒険小説作家ジャック・ヒギンズのベストセラー小説を映画化した、1977年製作の戦争アクション映画のサントラ盤である。以前にもこの映画の音楽の一部はコンピレーション・アルバムに収録されていたが、今回、作曲家自身のレーベルより完全な形で初めてリリースされた。

第二次世界大戦中に、「イギリスのウィンストン・チャーチル首相を誘拐せよ」とのヒットラーの特命を受けたドイツ軍特殊部隊が、ポーランド軍兵士に変装し、チャーチルが休暇で訪れる予定のイギリスの片田舎にパラシュート降下で潜入する。ある事件から正体がばれてしまったドイツ軍部隊は、そこに偶々居合わせたアメリカ軍と戦闘になるが、隊長のみが密かに抜け出し、チャーチルの捕獲に向かう……。という、かなり荒唐無稽なストーリーだが、無駄のない演出・脚本と、演技派揃いのキャスト、緊張感に満ちた音楽により一級のアクション作品に仕上がっている。

キャスティングは実に手堅い(但し役柄と演じている俳優の国籍は無茶苦茶である)。
主人公のドイツ軍空挺部隊長クルト・シュタイナー大佐を演じるのがマイケル・ケイン(ほんとはイギリス人。とぼけた役が多い俳優だが、ここではストレートにカッコいい役)。シュタイナーに協力するアイルランド人リーアム・デブリンにドナルド・サザーランド(ほんとはカナダ人)。チャーチル誘拐作戦の指揮を取るドイツ軍将校マックス・ラードル大佐にロバート・デュヴァル(アメリカ人)。ナチス・ドイツの影の実力者ハインリッヒ・ヒムラーにドナルド・ プレザンス(イギリス人。ここでのプレザンスは本物のヒムラーそっくりで結構笑える)。ラードル大佐に指令を出すドイツ軍幹部のカナリス提督にアンソニー・クエイル(イギリス人)。シュタイナーの右腕、フォン・ノイシュタット大尉にスヴェン= ベルティル・タウベ(スウェーデン人。元は歌手だが、アリステア・マクリーンの小説「麻薬運河」を映画化した「デンジャー・ポイント」というサスペンス映画の主役を演じたりしている渋い役者)。アメリカ軍将校とその部下が、ラリー・ハグマン(TVの「ダラス」で有名)とトリート・ウィリアムス(これがデビュー)で、彼らはこの映画の中で役柄と本人の国籍が一致している数少ない出演者である。ただ、この映画はドイツ軍人がとことんカッコよく、ストイックなヒーローとして描かれており、アメリカ軍人はどちらかと言えば間抜けで滑稽に描かれている(特にハグマンは気の毒なくらいダサい役)。

監督は、「OK牧場の決闘」「ゴーストタウンの決闘」「墓石と決闘」「荒野の七人」「ビッグ・トレイル」といった西部劇や、「大脱走」「北極の基地/潜航大作戦」といったアクション映画でのソリッドな演出で有名な職人ジョン・スタージェス。私が個人的に好きなスタージェス作品は、アリステア・マクリーンの小説「悪魔の兵器」を映画化した「サタンバグ」(脚本はジェームズ・クラヴェル)で、製作費が限られていたせいか一見B級っぽい作りながら、細菌兵器の恐怖を強烈なサスペンスで息つく暇もなく見せる演出力は、正に職人芸だった。

この映画はスタージェス監督が晩年に手がけた作品の1つだが、主演のマイケル・ケインによると重大な手抜きがあったらしい。ケインはこう語っている。
「私たち(関係者)はハリウッドの有名なベテランであるスタージェスが監督を引き受けてくれたと知って、とても喜んだ。ところが、彼はある日の撮影中に私にこう打ち明けた。自分はもう年をとったので好きな釣りに行くためのカネを稼ぐためだけに働いている。特にカリフォルニアでの深海釣り(とても金がかかる)のために、と。撮影が終了するや、彼は金をもらって、釣りに行ってしまった。後でプロデューサーから聞いた話では、彼は二度と戻らず、監督にとっては最も重要な仕事の1つであるポスト・プロダクションにも全く姿を現さなかったという。映画の出来は悪くなかったが、もっとまともな監督が担当していたらと思うと今でも腹が立つ。ハリウッドからやって来たというだけで、その人物に感銘を受けてしまうのは欧州人の悪い癖だ」
と、ケインは怒っているが、作品自体はいかにもスタージェスらしい手堅い仕上がりになっている。作品の出来よりも映画製作に対する姿勢に腹が立ったのだろう。

音楽を担当したのは、「燃えよドラゴン」「(TV)スパイ大作戦」「シンシナティ・キッド」「ブリット」「ダーティハリー」等のベテラン作曲家ラロ・シフリンで、ジャズをベースにしたスコアで有名な人だが、この映画では正統派のシンフォニック・スコアを書いている。ツィンバロンの演奏によるメインフレーズを随所に挿入し、うねるようなストリングスによって徐々に緊張感を高めていく手法は極めて効果的。ラストの勇壮なマーチは、この映画の主人公たちのストイックなヒロイズムを見事に表現している。

以前にリリースされていたコンピレーション・アルバムには、わずか6曲、合計18分しか収録されていなかったが、今回の完全盤CDには全19曲が含まれており、ようやくこの傑作スコアの全貌が明らかになった。これはシフリンのオーケストラル・スコアの中でもベストの1つだと思う。
(1999年5月)

Lalo Schifrin

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