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(2001年7月 〜 2002年2月)

 


<2002年2月>

 

「アトランティスのこころ」 HEARTS IN ATLANTIS
Director: Scott Hicks
Writer: William Goldman
Based on a novel by: Stephen King
Music: Mychael Danna
Cast: Anthony Hopkins(Ted Brautigan), Hope Davis(Elizabeth Garfield), David Morse(Robert Garfield), Anton Yelchin(Bobby Garfield), Mika Boorem(Carol Gerber), Alan Tudyk(Monte Man), Will Rothhaar(Sully), Adam LeFevre(Donald Biderman), Wes Johnson(Sports Announcer), Tom Bower(Len Files), Celia Weston(Alana Files), Eric Eggen(Coast Guardsman at Carnival), Bourke Floyd(Lowman), Kathie France(Rider at Carnival), Sara Hamilton(Hot Dog Vendor at Carnival), Timothy Reifsnyder(Harry Doolin), Deirdre O'Connell(Mrs. Gerber), Jim Hild(Lowman), Kristina Lash(Carousel Rider at Carnival), Steve Little(Lowman), David Rivitz(Shady Vendor)
Review: スティーブン・キングの小説を基に「明日に向かって撃て!」「大統領の陰謀」「マラソン・マン」等のベテラン、ウィリアム・ゴールドマンが脚本を書き、「シャイン」「ヒマラヤ杉に降る雪」等のスコット・ヒックスが監督したドラマ。1960年代のアメリカの片田舎を舞台に、アンソニー・ホプキンス扮する不思議な能力をもった老人と、彼を慕う11歳の少年(アントン・イェルチン)との関係を描いた、ややスーパーナチュラルなストーリー。デヴィッド・モースが、主人公の少年が成長して中年男性になった役で冒頭とラストに登場し、彼の回想の形でストーリーが展開する。キング原作=ゴールドマン脚本というと「ミザリー」と同じパターンであり、それなりに期待して見たのだが、話自体はちょっと気のきいた短編小説程度のもので、これを長編映画の長さにするにはあまりにも内容が浅すぎるような気がする(原作は5部構成になっており、この映画はその内の1部のみを映画化したものらしい)。ストーリーテリングの名手二人の手によるものとは思えないほどドラマ性やサスペンスも弱く、展開の意外性もない。特にラストが非常に曖昧で、「これで終わり?」という感じで拍子抜けする。ホプキンスは相変わらず上手いのだが、私はこの役者には同じイギリス人俳優のアレック・ギネスやローレンス・オリヴィエのような魅力がどうしても感じられない。多分ユーモアのセンスが欠如しているせいだろう。わざわざ映画にする必要のない、小説で読む方がよい作品だと思う(同じキング原作の「グリーン・マイル」を見た時にも同様の印象を持ったが・・)。
Rating: ★★

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「ロード・オブ・ザ・リング」 THE LORD OF THE RINGS: THE FELLOWSHIP OF THE RING
Director: Peter Jackson
Writers: Frances Walsh, Philippa Boyens, Peter Jackson
Based on a novel by: J.R.R. Tolkien "The Fellowship of the Ring"
Music: Howard Shore
Cast: Elijah Wood(Frodo), Ian McKellen(Gandalf), Viggo Mortensen(Aragorn), Sean Astin(Sam), Liv Tyler(Arwen), Cate Blanchett(Queen Galadriel Nerwend), Sean Bean(Boromir), Ian Holm(Bilbo), Christopher Lee(Saruman), John Rhys-Davies(Gimli), Alan Howard(Voice of the Ring), Noel Appleby(Everard Proudfoot), Sala Baker(Sauron), Orlando Bloom(Legolas), Billy Boyd(Pippin), Marton Csokas(Lord Celeborn of the Galadhrim), Megan Edwards(Mrs. Proudfoot), Michael Elsworth(Gondorian Archivist), Mark Ferguson(Gil-Galad), Lawrence Makoare(Lurtz), Brent McIntyre(Witch-King), Peter McKenzie(Elendil), Sarah McLeod(Rosie Cotton), Dominic Monaghan(Merry), Ian Mune(Bounder), Craig Parker(Haldir), Cameron Rhodes(Farmer Maggot), Martyn Sanderson(Gatekeeper), Andy Serkis(Gollum/Smeagol), Harry Sinclair(Isildur), David Weatherley(Barliman Butterbur), Hugo Weaving(Elrond), Peter Jackson(Drunk)
Review: 世界を支配する力を秘めた指輪をめぐる善と悪との闘いを描くJ・R・R・トールキン作のファンタジー小説「指輪物語」3部作(「旅の仲間」「二つの塔」「王の帰還」)の映画化。2400人のスタッフ・キャストと26000人のエキストラにより15ヶ月間の撮影日数をかけて3本分を一気に撮影し、1本ずつ3年間にわたって公開することになっている。総製作費は2億7000万ドルで1本あたり9000万ドル。第1部の「THE FELLOWSHIP OF THE RING」は欧米で大ヒットしており、製作を担当したインディーズ大手のニューライン・シネマも一安心といったところだろう。日本でのオールライツは3本合せて20億円強と言われているが、原作の知名度が欧米に比べて低い日本でも果たしてヒットするだろうか。映画はこの壮大な原作を全く手を抜くことなく緻密に映像化した非常にアンビシャスな作品で、SFXを駆使した戦闘シーンも迫力があるし、各登場人物のキャラクターの描き込みも丁寧で説得力がある。個人的にはクリストファー・リーが単なる顔見せの端役ではなく、非常にパワフルな悪役を演じていたのが嬉しかった。最近の彼の出演作中ではベストの役柄だろう(彼は「スター・ウォーズ エピソード2」にも重要な役でキャストされているが)。リーとイアン・マッケランとの闘いは、ロジャー・コーマン監督の「忍者と悪女」でのヴィンセント・プライスとボリス・カーロフの魔術師同士のバトルを思い出させる。ただ、やはり3時間近い上映時間はちょっと長すぎて緊張感がどうしても持続しない。特に戦闘シーンと戦闘シーンの間の部分でテンポが鈍ってダレかかる。それをなんとかカバーしているのが、全編まさにWall to Wallという感じでびっしりと付けられたハワード・ショアによるエキサイティングなスコアで、その効果は絶大である。
Rating: ★★★

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「プリティ・プリンセス」 THE PRINCESS DIARIES
Director: Garry Marshall
Writer: Gina Wendkos
Based on a novel by: Meg Cabot
Music: John Debney
Cast: Julie Andrews(Queen Clarisse Renaldi), Anne Hathaway(Amelia 'Mia' Mignonette Thermopolis Renaldi), Hector Elizondo(Joseph/Joe), Heather Matarazzo(Lilly Moscovitz), Mandy Moore(Lana Thomas), Caroline Goodall(Helen Thermopolis), Robert Schwartzman(Michael Moscovitz), Erik von Detten(Josh Bryant), Patrick Flueger(Jeremiah 'Miah' Hart), Sean O'Bryan(Patrick O'Connell), Sandra Oh(Vice Principal Gupta), Kathleen Marshall(Charlotte Kutaway), Mindy Burbano(Gym Teacher Harbula), Kim Leigh(Music Teacher Wells), Beth Anne Garrison(Cheerleader Anna), Bianca Lopez(Cheerleader Fontana), Tamara Levinson(Cheerleader Lupe), Lenore Thomas(Melissa), Erik Bragg(Bobby Bad), Abigail Green-Dove(Linda Green), Meredith Shevory(Meredith), Joel McCrary(Prime Minister Motaz), Clare Sera(Mrs. Motaz), Juliet Elizondo(Marissa), Greg Lewis(Baron Siegfried von Troken), Bonnie Aarons(Baroness Joy von Troken), Darwood Chung(Emperor Sakamoto)
Review: 母親と二人でサンフランシスコに住む15歳の平凡な少女が、実はヨーロッパの(架空の)小国ジェノヴィアの正当な王位継承者であったことがわかり一夜にしてプリンセスになるという、いかにもディズニーらしいファミリー・ピクチャー。「シンデレラ」や「マイ・フェア・レディ(ピグマリオン)」といった古典的ストーリーの焼き直しであり、同じマーシャル監督の「プリティ・ウーマン」とも同種の実に他愛ない話だが、主役の少女を演じるアン・ハサウェイ、彼女の祖母でジェノヴィア国の女王を演じるジュリー・アンドリュース、そして女王の運転手であり相談役でもある側近を演じるヘクター・エリゾンド(マーシャル監督作品の常連だが、「サブウェイ・パニック」での悪役も忘れ難い)といった役者たちの好演により、最後まで飽きさせずに見せる。特にアンドリュースが久々に彼女らしい役柄を非常に楽しそうに演じていて良かった。最近のハリウッド映画には珍しく暴力もセックスも出てこないが、こういう映画こそ彼女にふさわしいという気がする。彼女はかつて舞台の「マイ・フェア・レディ」で主役の少女を演じたことがある(映画版でオードリー・ヘップバーンが演じた役)が、この映画の中で突然プリンセスになったハサウェイに対して「私も同じだったのよ」というセリフにニヤリとさせられる。ジョン・デブニーのツボを押さえたアンダースコアも良い。特に感動させるわけでなく、大笑いもしないが、肩のこらないライト・エンターテインメントに仕上がっている。
Rating: ★★1/2

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「オーシャンズ11」 OCEAN'S ELEVEN
Director: Steven Soderbergh
Writer: Ted Griffin
Based on the original story / screenplay by: George Clayton Johnson, Jack Golden Russell, Harry Brown, Charles Lederer
Music: David Holmes
Cast: George Clooney(Daniel 'Danny' Ocean), Brad Pitt(Rusty Ryan), Julia Roberts(Contessa 'Tess' Ocean), Matt Damon(Linus Caldwell), Andy Garcia(Terrence 'Terry' Benedict), Carl Reiner(Saul Bloom), Elliott Gould(Reuben Tishkoff), Don Cheadle(Basher Tarr), Scott Caan(Turk Malloy), Bernie Mac(Frankie Cattone aka Ramon), Casey Affleck(Virgil Malloy), Shaobo Qin(Yen Mu-Shuu), Lennox Lewis(Himself), Edward Jemison(Livingston Dell), Vitali Klitschko(Himself), Topher Grace(Himself), Joshua Jackson(Himself), Holly Marie Combs(Herself), Jerry Weintraub(High Roller Card Player), Frankie J. Allison(Casino Boss), Vladimir Klitschko(Himself), Wayne Newton(Himself), Emanuel Steward(Himself), Barry Watson(Himself), Shane West(Himself), Angie Dickinson(Herself), Henry Silva(Himself)
Review: ルイス・マイルストンが監督し、フランク・シナトラ、ディーン・マーティンといった所謂“ラット・パック”が総出演した1960年製作の犯罪映画「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク。ラスヴェガスの3大カジノの現金がすべて集まる巨大金庫から、厳重な警戒とセキュリティシステムを破って1億6000万ドルを盗み出そうとする犯罪スペシャリストたちを描く。オールスターキャストが売りの映画だが、クルーニーとブラピ以外の主要キャラクターは出番も少なく演技も平坦であまりインパクトがない。特にジュリア・ロバーツは少しくたびれた感じで精彩がなく、ミスキャストという気がする。敵役のアンディ・ガルシアも迫力不足。スティーヴン・ソダーバーグの演出は前作「エリン・ブロコビッチ」や「トラフィック」から一転して実に軽いタッチだが、娯楽に徹しているようで、なぜかいまひとつ徹しきれていない。後半の現金強奪シーンの軽快なテンポはなかなかよいが、どういうわけかサスペンスやカタルシスが全くない(彼の犯罪映画はいつもそうだが)。“悪(ワル) VS 悪”の図式、つまり孤高のダーティヒーローが巨悪に立ち向かって行くというパターンの犯罪映画は個人的に好きなジャンル(ドン・シーゲル監督の「突破口!」とか)なのだが、この映画の場合は巨悪に対して主人公が孤軍奮闘するわけではなく仲間が11人もぞろぞろいるし、しかもクルーニーとガルシアが一人の女(ロバーツ)を奪い合うという安っぽいソープオペラ的要素まで入っていて、どうもすっきりしない。現金強奪の後にドビュッシーがかかって妙にしんみりするのもいただけないし、エンディングが非常に中途半端で見終った後に爽快感がないのもよくない。11人のメンバー中、「オー!ゴッド」「四つ数えろ」等の監督でもあるカール・ライナー(ロブ・ライナーの父親)と、いかにも“悪趣味ラスヴェガスおじさん”っぽいエリオット・グールドが秀逸。1960年のオリジナルにも出ていたアンジー・ディッキンソンとヘンリー・シルヴァが本人役でカメオ出演している(と、クレジットに出るがどこに出ていたのか全く気付かなかった)。
Rating: ★★1/2

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<2001年12月>

 

「スパイキッズ」 SPY KIDS
Director/Writer/
Editor:
Robert Rodriguez
Music: Danny Elfman, Chris Boardman, John Debney, Gavin Greenaway, Harry Gregson-Williams, Heitor Pereira, Robert Rodriguez
Cast: Antonio Banderas(Gregorio Cortez), Carla Gugino(Ingrid Cortez), Alexa Vega(Carmen Cortez), Alan Cumming(Fegan Floop), Daryl Sabara(Juni Cortez), Tony Shalhoub(Mr. Alexander Minion), Teri Hatcher(Ms. Gradenko), Cheech Marin('Uncle' Felix Gumm), Robert Patrick(Mr. Lisp), Danny Trejo(Uncle Isadore 'Machete/Izzy' Cortez), Mike Judge(Donnagon/Donnamight), Richard Linklater(Cool Spy), Guillermo Navarro(Pastor), Johnny Reno(Agent Johnny), Shannon Shea(FoOglie #1/Flower), Norman Cabrera(FoOglie #2/Tall & Skinny), Trant Batey(FoOglie #3/Too Too), Andy W. Bossley(Brat), Jeffrey J. Dashnaw(Brat's Dad), Kara Slack(Carmen's Friend), George Clooney(Devlin)
Review: 「エル・マリアッチ」や「デスペラード」のロバート・ロドリゲス監督が撮ったファミリー・ピクチャー。冷戦時代に敵対する国家のスパイとして戦ってきたグレゴリオ(バンデラス)とイングリッド(グギノ)は、やがて恋に落ち結婚、スパイを引退して二人の子どもたちとともに平和な日々を過ごしていたが、悪の組織の陰謀にはまり捕えられてしまう。両親がスパイだったことを初めて知った子供たちは、彼らを救出するために悪の組織に立ち向かって行く・・。内容は実に他愛ないが、それなりに笑えるシーンはある。ロドリゲスはいつも脚本から編集まで自分でやってしまうので、それだけ作風が明らかに出る監督だと思うが、その彼がなぜここまで大衆に迎合した甘っちょろい映画を作りたかったのかよくわからない。単に肩の力を抜いた軽い作品を撮りたかったのか、子供が好きなのか・・。観客は飽くまで子供たちに感情移入する作り方になっており(だからファミリー・ピクチャーなのだが)、バンデラス、グギノという立っているだけでカッコいい男女にわざとカッコ悪いシーンを演じさせて笑いをとろうとしているところに少し無理がある。アラン・カミング、テリー・ハッチャー、ロバート・パトリックといった悪役メンバーにも全く毒がない。チーチ・マリン、ダニー・トレホといったロドリゲス映画の常連曲者俳優たちも、ここでは実にリラックスした軽い役を演じている。ジョージ・クルーニーがラストでカメオ出演しているが、日本語吹替版を製作する際には「フロム・ダスク・ティル・ドーン」と同様、野沢那智氏に声をあててもらいたい。音楽はダニー・エルフマン等総勢7名の作曲家が名前を連ねているが、全体に不思議と統一感がある。ということは全員に大した個性がないということか??
Rating: ★★1/2

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「スパイ・ゲーム」 SPY GAME
Director: Tony Scott
Writers: Michael Frost Beckner, David Arata
Music: Harry Gregson-Williams
Cast: Robert Redford(Nathan Muir), Brad Pitt(Tom Bishop), Catherine McCormack(Elizabeth Hadley), Stephen Dillane(Charles Harker), Larry Bryggman(Troy Folger), Marianne Jean-Baptiste(Gladys Jennip), Matthew Marsh(Dr. Byars), Todd Boyce(Robert Aiken), Michael Paul Chan(Vincent Vy Ngo), Garrick Hagon(Cy Wilson), Andrew Grainger(Andrew Unger), Bill Buell(Fred Kappler), Colin Stinton(Henry Pollard), Ted Maynard(CIA Administrator), Tom Hodgkins(CIA Lobby Guard), Rufus Wright(Folger's Secretary), Demetri Goritsas(Billy Hyland), James Aubrey(Mitch Alford), In-Sook Chappell(Receptionist), Shane Rimmer(Estate Agent), David Hemmings(Harry Duncan), Charlotte Rampling(Mrs. Cathcart)
Review: ベテランのCIAエージェント、ネイサン・ミュアー(レッドフォード)は、自身の退官日に、かつての部下トム・ビショップ(ピット)が中国でスパイ容疑により逮捕されたことを知る。ミュアーはビショップを見捨てようとするCIA上層部の裏をかき、ビショップ救出の作戦を企てる・・。題材や監督・キャストから抱く期待に反し、サスペンスやアクションの見せ場がほとんどなく、レッドフォードとブラピの存在感だけで見せようとする映画。予告編では主役二人が戦場で敵の銃弾をかいくぐって走るシーンがあるが、レッドフォードのアクションシーンはあの“走り”が全てであり、彼の残りの出番の大半はCIAの会議室での打合せシーンである。クライマックスのアクションシーンも敵がほとんど抵抗せずあっさりと作戦が成功してしまうので、ちょっと拍子抜けする。あまりにも動きの少ないストーリーなので、監督のトニー・スコットは主役二人が単にテーブルをはさんで会話するシーンの舞台をわざわざビルの屋上にもってきて、しかもそれをヘリコプターショットによる細かいカット割で見せる(元の脚本では室内のシーンだった)。これなど全く意味のない技巧ばかりが目立つシーンで、内容の無さをテクニックでごまかしているという感じである。レッドフォードがCIA長官による作戦命令を偽造するシーンがあるが、あんなに簡単に虚偽の指令によって重要な作戦が実行に移されてしまうとは、とても信じられない。それも、遂行中に死亡するアメリカ兵が出る可能性もあるような非常に危険な作戦である(きちんと承認を得ていない作戦行動で死者が出たら一体どうやってその責任をとるつもりなのだろう?)。最初の方でブラピがパートナーと2人組みになって敵の将軍を狙撃するシーンはなかなかリアル。パートナーが標的への距離や弾道途中の風向き等を測定して逐次狙撃手にインプットし、それに応じて狙撃手がライフルの照準を微調整していくやり方は実際に行われる手法である。主役二人の強いカリスマと比べて脇の役者が全般的に弱い。その中でも、顔見せ程度の役ながらベテランのデヴィッド・ヘミングスとシャーロット・ランプリングが出ていたのが懐かしい。ハリー=グレグソン・ウィリアムスによるボーイソプラノを使った宗教的なタッチのスコアは、別にそんな崇高なテーマの映画ではないので場違いな印象がある。90年代前半という設定とはいえ、中国が「残酷で野蛮な敵国」として描かれているのも時代錯誤を感じさせる。
Rating: ★★1/2

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「ソウル」 SEOUL
監督: 長澤雅彦
脚本: 長谷川康夫
音楽: 住友紀人
出演: 長瀬智也、チェ・ミンス、ジャン・フン、チョイ・スン他
Review: “「ホワイトアウト」の日本人スタッフと「シュリ」の韓国人スタッフが組んで作った”というのが売りの日韓合作アクション映画。逃亡犯を韓国まで護送した帰りに現金輸送車襲撃事件に巻き込まれた日本人刑事(長瀬)が、ソウルで連続して発生している同様の襲撃事件を捜査中の韓国人刑事(「ユリョン」「リベラ・メ」等のチェ・ミンスが演じる)と衝突しながらも、事件の解決に協力していくというストーリー。全編を韓国で撮影し、長瀬以外の出演者は全員韓国人という映画だが、見終った印象は明らかに“邦画のアクションもの”である。なぜなら監督・脚本といったクリエイティヴの中核にいるスタッフが全員日本人だからである。日韓合同でアクション映画を作るのなら、なぜ韓国人の監督を起用しなかったのだろう?この映画には「シュリ」や「JSA」のようにインターナショナルに通用するパワーや風格が感じられない。ストーリーにも問題がある。現金輸送車襲撃を繰り返す犯人グループの真の狙いは何か、ということがプロットの鍵となっているが、これはちょっと考えればすぐにわかってしまう。ところがこの映画の主人公の刑事たちは、その犯人たちの目的が映画の後半で観客に明らかにされた後も、いつまでたってもそのことに気付かない。これでは見ている方が「なんて間抜けな連中なんだろう」と思ってしまう。このように「観客は真実を知っているが主人公たちは知らない」という状況は、主人公たちがその真実を知りようがないような場合(たとえば主人公たちの中に敵のスパイがまぎれ込んでおり、観客だけがそれを知っているような状況)にはある種のサスペンスを生む。ところが、この映画では主人公たちも観客とほぼ同等の情報を与えられているので、それでも気付かないというのはいかにも頭が悪いという感じになってしまう。この映画のプロデューサーは「ホワイトアウト」の小滝氏だが、彼はリュック・ベッソン製作の「WASABI」の日本ロケのプロデュースも担当していたので、引き続いての海外との共同作業となる。「WASABI」はフランス主導の撮影で苦労した(らしい)ので、今回は日本主導でやろうと考えたのかもしれない。チェ・ミンスはストイックな役柄を好演しているし、長瀬もなかなか頑張っているので、映画自体が“邦画”の枠を超えきれていないのが残念。
Rating: ★★1/2

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<2001年11月>

 

「助太刀屋助六」
監督・脚本: 岡本喜八
原作: 生田大作「助太刀屋」
音楽: 山下洋輔
出演: 真田広之、鈴木京香、仲代達矢、村田雄浩、鶴見辰吾、風間トオル、本田博太郎、岸部一徳、岸田今日子、小林桂樹、友居達彦、山本奈々、天本英世、伊佐山ひろ子、竹中直人、嶋田久作、田村奈巳、他
Review: ベテランの岡本喜八監督が「EAST MEETS WEST」以来6年ぶりに撮った痛快時代劇。真田広之が主人公の助太刀屋助六に扮する。旅の途中で巻き込まれた仇討ち騒動で助太刀をした助六は、その礼として多くの報酬をもらったことでこれを家業にすることに決め、諸国をめぐり歩いては他人の仇討ちに首をつっこんでいく(この冒頭の仇討ちのモンタージュに過去の岡本監督作品で馴染みの役者が多数カメオ出演している)。やがて故郷に戻った助六は、そこでまさに仇討ちが行われようとしていることを知るが・・。この映画でまず感心させられるのは、名匠と呼ばれる監督がその晩年に陥りやすい、よりパーソナルな世界への傾倒(例えば黒澤明監督の最後の数本)が全く無く、徹底した娯楽作品としていつもの岡本監督のタッチで豪快に撮りきっているところである。ちょうどロバート・アルドリッチ監督の遺作が、女子プロレスラーを主人公にした痛快スポーツ根性映画「カリフォルニア・ドールズ」だったことを思い出す(別にこの映画が岡本監督の遺作になるというわけではないが)。非常に軽妙でコミカルなタッチなのだが、やっていることは結構ハードで、登場人物がいともあっさりとバタバタ死んでいく。この辺のドライでハードボイルドなタッチがいかにもこの監督らしい。役者も脇に至るまで生き生きとしている。山下洋輔のジャズもなかなか映像にはまっていて良い。尚、原作者の生田大作とは岡本監督自身のペンネームで、このストーリーは彼が1969年に一時間枠のTV映画用に書いたものである。
Rating: ★★★

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「ソードフィッシュ」 SWORDFISH
Director: Dominic Sena
Writers: Skip Woods
Music: Christopher Young, Paul Oakenfold
Cast: John Travolta(Gabriel Shear), Hugh Jackman(Stanley Jobson), Halle Berry(Ginger), Don Cheadle(FBI Agent Roberts), Sam Shepard(Senator Reisman), Vinnie Jones(Marco), Drea de Matteo(Melissa), Rudolf Martin(Axel Torvalds), Zach Grenier(A.D. Joy), Camryn Grimes(Holly Jobson), Angelo Pagan(Torres), Chic Daniel(SWAT Leader), Carmen Argenziano(FBI Agent), Kirk B.R. Woller(Torvalds' Lawyer), Tim DeKay(FBI Agent), Laura Wachal(Helga), Tait Ruppert(Ad Agency Executive), Craig Braun(Coroner), Ann Travolta(Hostage), Margaret Travolta(Hostage), Samuel J. Travolta(Hostage)
Review: 「マトリックス」等のジョエル・シルヴァーが製作し、「カリフォルニア」「60セカンズ」のドミニク・セナが監督したサスペンスアクション。元モサドのエリート・スパイ(ジョン・トラヴォルタ)率いる犯罪者グループが、過去の極秘捜査のために麻薬取締局によって設立されたダミー会社にプールされている95億ドルの略奪を図る。“巧妙なミス・ディレクションによる意表を突く展開”が売りの映画だが、実際に見てみると全く知性を感じさせないのは、ストーリーが単に行き当たりばったりにあらぬ方向に進んでいくだけで、きちんと伏線をはる形で組み立てられていないからだと思う。いかにも怪しげなショットをあちこちに挿入し、ラストは観客に「どうだ!」と言わんばかりのオチを見せるが、そこで「ああそうだったのか!」とならないのは伏線が全く論理的に設定されていないからで、単に「なんのこっちゃい?」で終わるだけになってしまう。こういうのは知性的なストーリーテリングとは呼ばない。冒頭の銀行強盗のシーンで人質の身体にくくり付けられた爆弾が爆発して周囲のパトカーやSWAT隊員を吹き飛ばすショットに、「マトリックス」で有名になった“ブレットタイム”撮影(100台以上のスティルカメラを並べて配置し、少しずつタイミングをずらしてシャッターを切った静止画をつないで超ハイスピード撮影の効果を出すもの。この効果専門のSFX会社がある)が使われていて、この30秒ほどのショットはさすがに迫力がある(しかし警察側の落ち度で爆死した人質のことなど誰も何とも思わないところに、この手の映画の冷酷さといい加減さがある)。ハッカーに扮したヒュー・ジャックマンは「X-メン」の時は(あの顔だったので)あまり感じなかったが、素顔を見ると若い頃のクリント・イーストウッドによく似ている。もう少し年をとるといい味が出てくるかもしれない。音楽のクリストファー・ヤングは例によって劇伴に徹した重厚なオーケストラルスコアを書いている。
Rating: ★★1/2

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「ヴィドック」 VIDOCQ
Director: Pitof (Jean-Christophe Comar)
Writers: Jean-Christophe Grange, Pitof
Music: Bruno Coulais
Cast: Gerard Depardieu(Vidocq), Guillaume Canet(Etienne Boisset), Ines Sastre(Preah), Andre Dussollier(Lautrennes), Edith Scob(Sylvia), Moussa Maaskri(Nimier), Jean-Pierre Gos(Tauzet), Isabelle Renauld(Marine Lafitte), Jean-Pol Dubois(Belmont), Andre Penvern(Veraldi), Gilles Arbona(Lafitte), Jean-Marc Thibault(Leviner), Francois Chattot(Froissard), Elsa Kikoine(La muette), Fred Ulysse(Le vieux souffleur), Luc-Antoine Diquero(Le journaliste), Akonio Dolo(Gandin), Nathalie Becue(La Matrone), Pierre Macherez(Soldat Invalides), Michel Lefevre(Le cocher), Dominique Zardi(Ouvrier souffleur), Cyril Casmeze(Juliette Degenne)
Review: 19世紀フランスに実在したとされる元犯罪者・元警官の私立探偵ヴィドック(ジェラール・ドバルデュー)と、連続殺人犯である謎の錬金術師との対決を描いたミステリ+ファンタジー。監督のピトフ(本名ジャン=クリストフ・コマール)は、「エイリアン4」「ジャンヌ・ダルク」等のSFXマンで、本作が監督デビュー。また、この作品はジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」の次回作でも使う予定のHDデジタルビデオカメラによって全編が撮影されている(ビデオカメラのせいか露光が足りないショットでは粒子が粗くなるが、これが技術的限界なのか意図的な効果なのかは不明)。個人的にはこの手の「時代もの」で、「ミステリ」で、そこにスーパーナチュラルな要素が入った映画は好きなジャンルなので結構楽しめたが、ストーリーはごく単純であまりひねりは利いていない(ラストのオチについては賛否両論があろうが、そもそも大した謎ではないのであまり気にならない)。また、冒頭で主人公のヴィドックが錬金術師との闘いで死んでしまい回想形式でストーリーが展開するので、主人公の出番は意外と少なく、そのキャラクターの描き込みも浅い。むしろこの映画の見所は、SFXマン出身の監督らしい凝りに凝った映像であり、特に被写界深度の極端に深いパンフォーカスや、絵画的な色調の映像、マルク・キャロによるファンタスティックなデザイン等が独特の幻想的な雰囲気をかもし出している。広角レンズによるクロースアップの安易な多用が少しうっとうしいのが難点。ブリューノ・クーレの重厚なスコアもなかなか独創的で良い。
Rating: ★★★

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<2001年10月>

 

「クローン」 IMPOSTOR
Director: Gary Fleder
Writers: Caroline Case, Ehren Kruger, David N. Twohy
Based on a short story by: Philip K. Dick "Impostor"
Music: Mark Isham, Jeff Beal(additional music)
Cast: Gary Sinise(Spence Olham), Madeleine Stowe(Maya Olham), Vincent D'Onofrio(Hathaway), Tony Shalhoub(Nelson Gittes), Mekhi Phifer(Cale), Shane Brolly(Lt. Burrows), Nijel(Zoner Mensa), Jack Truman(Xenon), Phil Hawn('The Project' Engineer), Rachel Luttrell(Nurse), Dianna Miranda(Nurse), Tim Guinee
Review: フィリップ・K・ディックの短編小説の中でも特に私の好きな「にせもの」を映画化した作品(原作はハヤカワ文庫SF『ディック傑作集@ パーキー・パットの日々』に収録)。15年以上も前にはじめてこの短編を読んだ時には、その凝縮されたサスペンスと展開の意外性に圧倒され、「これを是非映画化してみたい」と勝手に考え、設定を少し変えた脚本を自分で書いてみたりしたものである。ディックの小説での最も重要なテーマは“自分の存在証明”だと思う。「自分は本当に自分なのか?」「自分が自分であることをどうやって証明するのか?」というテーマを、彼は繰り返し描いている。彼の原作を映画化した「ブレードランナー」「トータル・リコール」「スクリーマーズ」といった作品にも同様のテーマが内包されている。この「にせもの」は、そのテーマが最もストレートに表現された傑作で、意表を突く展開、強烈なサスペンス、愕然とするエンディングと、まさにエンタテインメントの極みのような傑作である。和訳にして30頁程度のこの短編小説を102分の映画に引き伸ばすのは至難の技だっただろう。映画は原作小説に含まれる秀逸なアイデアをほとんどそのまま取り込んでいるが、案の定そういったアイデアの部分だけが際立って素晴らしく、間をつなぐ部分の描写はいたって平凡である。原作に登場しないキャラクターやエピソードを加えたりもしているが、原作を読んでいる者にはどうしても余分な付け足しのように思えてしまう。原作は特にエンディングが見事なのだが、映画ではそこに少し工夫を加えている(途中で予想はできてしまうが・・)。色々と不満はあるが、それでもサスペンス映画としては水準以上の出来なのは、ゲイリー・シニーズ(プロデューサーも担当)、マデリーン・ストウ、ヴィンセント・ドノフリオ等出演者の好演と、やはり原作の圧倒的な面白さのためだと思う。それにしてもこの「クローン」という邦題はいかにも安易で、なんとかしてもらいたい。
Rating: ★★★

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「トゥームレイダー」 LARA CROFT: TOMB RAIDER
Director: Simon West
Writers: Simon West, Patrick Massett, John Zinman
Music: Graeme Revell
Cast: Angelina Jolie(Lady Lara Croft), Jon Voight(Lord Richard Croft), Noah Taylor(Bryce), Iain Glen(Manfred Powell), Daniel Craig(Alex West), Christopher Barrie(Hillary the Butler), Julian Rhind-Tutt(Mr. Pimms), Richard Johnson(Distinguished Gentleman), Leslie Phillips(Wilson), Robert Phillips(Assault Team Leader), Rachel Appleton(Young Lara), Henry Wyndham(Boothby's Auctioneer), David Y. Cheung(Head Laborer), David K.S. Tse(Head Laborer), Ayla Amiral(Little Cambodian Girl), Stephanie Burns(Little Inuit Girl), Ozzie Yue(Aged Buddhist Monk), Wai-Keat Lau(Young Buddhist Monk), Carl Chase(Ancient High Priest)
Review: 良くも悪くもアンジェリーナ・ジョリーのプロモーションビデオ的映画である。私は原作のビデオゲームをやったことがないのでアンジェリーナが主人公ララ・クロフトのイメージにどれほど近いのかわからないが、ゲームの部分的なフッテージを見た限りでは、このキャラクターは映画のように強くてかわいい女というより、もっと“Bitchy”(あばずれ的)な印象だった。映画化の話が出る前に、なんとかミトラという女優(モデル?)がララの役をイメージキャラクター的に演じていたが、彼女の方がその印象に近かったような気がする。アンジェリーナはアクションシーンに殆どスタンドインなしの体当たり演技で挑んでおり、その役者根性は大したものである(一般的に俳優の娘である女優は仕事に対しても、スタッフやファンに対しても非常にプロフェッショナルに対応する傾向がある。ブリジット・フォンダやミラ・ソルヴィーノ等・・)。ストーリーははっきり言ってどうでもいいような話なので、ともかくこの女優の魅力をどれほど楽しめるかにかかっている。しかし、アメリカ人の彼女が無理矢理イギリス訛りの英語で話すのを聞くと、イギリス人にとってはさぞかし気持ち悪いのだろうと想像する(私は関西出身だが、NHKの朝のドラマの奇妙な関西弁にはいつも体中がこそばゆくなる)。アクションシーンは、アンジェリーナの頑張りでそこそこ楽しめるが、カットを細かく割りすぎで何をやっているのかよくわからない。こういうシーンは、いかにわかりやすく美しく見せるかがエディターの技量であり、単にカットを細かく割ればよいというものではないのだ。ストーリーが弱い理由は、要するに悪役が弱いからである。だから盛り上がらない。「レイダース・・」のベロックに相当するようなライバルの考古学者が出て来るが、これがララに気があるナヨナヨした男で頼りないことこの上ない。宿敵の男も気取ってばかりで全く迫力がない。私ならこういう悪役には絶対にアンジェリーナ以上にセクシーでタフな女優(たとえばジーナ・ガーションとか)をもってくる。女の敵は女なのだ。
Rating: ★★1/2

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<2001年9月>

 

「ピストルオペラ」 PISTOL OPERA
監督: 鈴木清順
脚本: 伊藤和典
音楽: こだま和文
出演: 江角マキ子、山口小夜子、韓 英恵、永瀬正敏、樹木希林、加藤治子、沢田研二、平 幹二郎、他
Review: この映画のプロデューサーのO氏とは昔から知り合いなので、この作品が「鈴木清順監督の『殺しの烙印』の現代版を作る」という最初のアイデアの段階から、様々な脚本家の手を通じて徐々に形になっていく過程を少し知っているのだが、完成した作品を観ると、いかにも鈴木監督らしい見事な色彩美のユニークな映画になっていて、O氏が最初に意図したイメージにかなり近い仕上がりになったのではと想像する(そういえば、構想の段階では、ビートたけしやクエンティン・タランティーノが出演に合意している、という話もあった・・)。謎の殺し屋組織“ギルド”というのがあり、その中に殺し屋のランキングがあって、ナンバー1の座を狙う殺し屋同士がプロ対プロの闘いを繰り広げる、というお話。プロの殺し屋には色々と“こだわり”がある、という設定なのだが、その“こだわり”のアイデアが実に面白い。私が一番好きだったのは、射殺して倒れた死体が必ず北を向いて“北枕に”倒れるというこだわりを持った殺し屋のアイデアで、万一撃ち損じて別の方角に倒れそうになると、銃をバンバンバンバン!と連射して死体が地面に着地するまでに北を向かせてしまうのである。このアイデアが最終的に映画に採用されなかったのはなんとも惜しい(実際の映画でどんな“こだわり”が出て来るかは見てのお楽しみ)。もうひとつ、鈴木監督の色彩感覚に感心したのは、ストーリーの後半、主人公であるランキングNo.3の殺し屋“野良猫”(江角)が、宿敵の殺し屋“百眼”に命を狙われることになった時点で、彼女は死んだも同然なので“影が赤くなる”というのである。プロデューサー「それは素晴らしい!でも、どうやって撮るんですか?」 監督「それを考えるのがあなたの役目でしょ」 プロデューサー「うーむ・・(頭を抱え込む)」 映画プロデューサーとは大変な仕事である。でも、影はちゃんと赤くなってました。
Rating: ★★★

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「陰陽師」
監督: 滝田洋二郎
脚本: 福田 靖、夢枕 獏、江良 至
音楽: 梅林 茂
出演: 野村萬斎、伊藤英明、小泉今日子、真田広之、萩原聖人、今井絵理子、夏川結衣、宝生 舞、柄本 明、岸部一徳、他
Review: 平安の時代に実在した陰陽師(おんみょうじ)・安部晴明(あべのせいめい)を主人公にした夢枕 獏の原作の映画化。“陰陽師”とは幻術や占い、呪術等を操る一種の超能力者のことで、平安京には陰陽寮という政府機関があり、彼らはそこで暦の作成や時刻の管理、土地の吉凶の判断等を担当していたという。ストーリー自体はフィクションで、安部晴明と右近衛府中将・源博雅(伊藤)との友情、そして悪の陰陽師・道尊(真田)との闘いを描いたファンタジーになっており、題材としてはなかなか面白いと思う。が、映画が一向に面白くならないのは監督の滝田洋二郎の演出に毒気やパンチが全くないからだろう。この監督はどんな題材でも無難にうまくまとめる職人だが、これといった特徴や個性がないので、何を見ても映画的な魅力に乏しく感じる。クライマックスでのワイヤーアクションによる格闘シーンやCGIを使ったSFXシーンの演出にもあまり独創性がなく、カタルシスもない。安部晴明を演じる狂言師・野村萬斎は映画の主演はこれが初めてらしい(19歳の時に黒澤明監督の「乱」に脇役で出演している)が、演技はやや一本調子なもののセリフの発声や立ち振る舞いが非常に良く、なかなか存在感がある。特に伊藤、今井といった学芸会演技の役者と一緒のシーンでは、高校の文化祭の演劇にひとりだけプロの役者が混じっているような印象を受ける。時代もので、しかも超能力者同士の闘いを描いたファンタジーというのは決して悪くない題材だと思うのだが、これを一流の娯楽大作に仕上げることのできる監督が日本にはいない、というのが現実なのだろう。しかしこの程度の出来の映画の製作費に10億円もかけてしまっては、回収するのが大変だと思うのだが・・。
Rating: ★★1/2

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<2001年8月>

 

「青い夢の女」 MORTEL TRANSFERT
Director/Writer: Jean-Jacques Beineix
Based on the novel by: Jean-Pierre Gattegno "Mortel transfert"
Music: Reinhardt Wagner
Cast: Jean-Hugues Anglade(Michel Durand), Helene de Fougerolles(Olga Kubler/The prostitute), Miki Manojlovic(Erostrate), Valentina Sauca(Helene Maier), Robert Hirsch(Armand Zlibovic), Yves Renier(Max Kubler), Catherine Mouchet(The maths teacher), Denis Podalydes(Inspector Chapireau), Jean-Pierre Becker(Jacques Preco), Riton Liebman(The disc-jockey), Vantha Talisman(Mai Li), Laurent Bateau(Young depressive man), Cyril Raffaelli(Thief), Estelle Desanges(Michel Durand's mother), Matteo Vallon(Michel Durand's father), Pierre-Louis Monnot(Michel Durand as a child), Reinhardt Wagner(The blind man), Fabien Behar(Seller at Bernstein's), Ovidie(Porn actress), Fanny Cottencon(Curly haired woman at party)
Review: 「ディーバ」(1981)「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」(1986)「ロザリンとライオン」(1989)「IP5/愛を探す旅人たち」(1992)等のジャン=ジャック・ベネックスが8年ぶりに監督した新作。ベネックスというと、一時はリュック・ベッソン、レオス・カラックスと共にフランス映画界の若手実力派監督として注目されていたが、「フィフス・エレメント」等エンターテインメント系大作を手がけ、数多くの新人監督作品をプロデュースしてメジャーへの道に進んだベッソンと比べ、ベネックスとカラックスはよりパーソナルでアーティスティックな世界にとどまっており、マイナーな印象がある。特にベネックスは前作の「IP5」以降ずっと沈黙を続けており、満を持して撮った新作がこの「青い夢の女」だが、その割にはサスペンスともコメディともラブストーリーともつかないなんとも中途半端な映画で拍子抜けしてしまった。ジャン=ピエール・ガノニョーの小説をベースにしており、ジャン=ユーグ・アングラード扮する精神分析医が、患者である扇情的な人妻に惹かれたことから様々なミステリアスな事件に巻き込まれる、というストーリー。夫の暴力にマゾヒスティックな悦びを感じ、しかも窃盗癖のある女というヒロインの設定や、主人公が遭遇する数々の不条理な出来事はちょっとヒッチコック的な世界だが、サスペンスや謎解きやユーモアの要素がすべて中途半端で、映画としての完成度がいまひとつ低い。ただ、ブルーを基調とした映像の色彩美や、女性のセンシュアルな描き方はさすがに見事で、エレーヌ・ド・フジュロール、ヴァレンティナ・ソーカ等の女優も素晴らしい。アングラードもいかにも適役で、二度と同じ役者を使わない主義(らしい)のベネックスが「ベティ・ブルー」で組んだ彼を再起用した理由もうなずける。ラインハルト・ワグナーの音楽は精神分析のシーンの幻想的な音楽等が面白いが、全体的な印象は薄い。この作曲家は劇中エレベーターに乗り込んで来る盲目の住人の役で出演している。
Rating: ★★1/2

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<2001年7月>

 

「A.I.」 A.I. ARTIFICIAL INTELLIGENCE
Director/Writer: Steven Spielberg
Based on a short story by: Brian Aldiss "Supertoys Last All Summer Long"
Music: John Williams
Cast: Haley Joel Osment(David), Jude Law(Gigolo Joe), Frances O'Connor(Monica Swinton), Sam Robards(Henry Swinton), Jake Thomas(Martin Swinton), Brendan Gleeson(Lord Johnson-Johnson), William Hurt(Professor Allen Hobby), Jack Angel(Teddy's voice), Paul Barker(Flesh Fair Band Member), Clara Bellar(Nanny Mecha), Keith Campbell(Road Warrior), Enrico Colantoni(Murderer), Kelly Felix(Butler Mecha), Adrian Grenier(Boy in Car), John Harmon(Medic Mecha), Ken Leung(Syatyoo-Sama), Katie Lohmann(Pleasure Mecha), Paul Isaac Martin(Crash Test Dummy), Chris Palermo(Red Biker Hound), Chris Rock(Comedian Mecha), Ashley Scott(Gigolo Jane), Meryl Streep(Blue Fairy's voice), Robin Williams(Dr. Know's voice), Ben Kingsley(Narrator)
Review: イギリスのSF作家ブライアン・オールディスの短編小説『スーパートイズ いつまでもつづく夏』の映画化権を1983年に取得したスタンリー・キューブリックが、アーサー・C・クラークを含む複数のライターに脚本を執筆させ極秘裏に準備していた企画を、キューブリックの死後スティーヴン・スピルバーグが故人の遺志を引き継いで映画化した作品。近未来、難治病にかかり治療法が見つかるまで身体を冷凍保存されている実子を持つ夫婦が、親を“愛する”という感情をインプット可能なロボットの少年デヴィッド(オスメント)を養子として引き取る。ところが予期せぬトラブルから母親に捨てられてしまったデヴィッドは、母親から愛してもらうために“本物の人間になる”方法を探し求めて旅に出る・・。“人間に限りなく近い人工知能(A.I.)”というテーマは、キューブリックが「2001年宇宙の旅」のコンピュータHAL9000でも描いており、彼にとって重要な関心事の1つだったらしい。この映画は、スピルバーグが1977年の「未知との遭遇」以来24年ぶりに自から脚本を書いているが、撮影中も常にキューブリックの(目に見えぬ)存在を意識していたという。特にストーリーの後半、デヴィッドが「ピノキオ」の物語に出てくる青い妖精を捜し求める旅の過程などは、「2001年宇宙の旅」のクライマックスにも少し通ずるものを感じるが、映画全体として非常に違和感を覚えるのはキューブリックとスピルバーグという二人の映像作家の個性があまりにも違いすぎるからのような気がする。一番の問題は、観る者が主人公であるロボットに非常に感情移入しづらいという点であり、“感情移入している”ことを前提とした演出がことごとく空回りしてしまっている。スピルバーグの演出手法は観客が登場人物に感情移入している場合に最高の威力を発揮するので、ここでは彼の良さが残念ながらほとんど活かされていない。キューブリックが自ら監督していればどのような作品になっていただろうか・・。芸達者な俳優を揃えているが、ジュード・ロウの役柄はストーリー中でなぜかほとんど意味がない。ベン・キングスレーがナレーション、ロビン・ウィリアムスとメリル・ストリープが声の出演をしている。ジョン・ウィリアムスのスコアは彼がスピルバーグと組んだ作品中では最も抑制された音楽の1つだろう。
Rating: ★★1/2

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「千と千尋の神隠し」 SPRITED AWAY
原作・脚本・監督: 宮崎 駿
音楽: 久石 譲
プロデューサー: 鈴木敏夫
出演: 柊 瑠美、入野自由、内藤剛志、沢口靖子、夏木マリ、菅原文太、上條恒彦、小野武彦、我修院達也、大泉 洋、はやし・こば、神木隆之介、玉井夕海、他
Review: 宮崎 駿監督の新作アニメで、彼のベスト作の1つだろう。平凡で無気力・無感動な10歳の少女・千尋が、両親と引越し先の新しい家に行く途中で迷い込んだ不思議な町。両親はその町の掟を破ったために豚にされてしまい、残された千尋は町を支配する強欲な魔女・湯婆婆に本当の名前を奪われ、“千”という名で働くことになる・・。ストーリー自体は、“不思議な世界に迷い込んだ少女が、内に秘めた力を呼び覚まし、苦難を乗り越えていく”という昔からよくある設定でさほど目新しいものではないが、なんと言ってもこの映画の素晴らしさは宮崎氏独特のファンタスティックなイマジネーションに満ちた映像表現の数々であり、まさに日本が世界に誇れる超一流の芸術作品に仕上がっていると思う。特に後半に登場する、海の中を走る列車の幻想的なイメージなどは、その美しい映像を見ているだけで感動して胸が一杯になってしまう。ディズニーやドリームワークスの大作アニメもエンターテインメントとしては一流だが、監督の顔が見えてこない。この作品には宮崎氏の作家としての個性が明確に刻印されており、芸術的なレベルもずっと高尚である。他人とのコミュニケーションが下手で、すぐにキレたりストーカーになったりする現代人をモデルにした「カオナシ」のキャラクターや、汚染された河の神様のキャラクター等、ちょっとストレートすぎる表現もあるが、前作「もののけ姫」よりはずっと明快な内容であり、海外でも受け容れられやすい作品だと思う(海外はディズニーが配給)。宮崎作品の常連、久石 譲のスコアも、ファンタスティックな映画の内容にふさわしいカラフルでドラマティックなオーケストラルスコアで感動的だった。7月10日に日比谷スカラ座で行われた完成披露試写では、フル・デジタルのDLP方式により上映された。
Rating: ★★★1/2

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