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(2001年3月 〜 6月)

 


<2001年6月>

 

「キス・オブ・ザ・ドラゴン」 KISS OF THE DRAGON
Director: Chris Nahon
Writers: Luc Besson, Robert Mark Kamen
Based on a story by: Jet Li
Music: Craig Armstrong
Cast: Jet Li(Liu Jian), Bridget Fonda(Jessica), Tcheky Karyo(Jean-Pierre Richard), Laurence Ashley(Aja), Burt Kwouk(Uncle Tai), Cyril Raffaelli(Twin #1), Didier Azoulay(Twin #2), John Forgeham(Max), Max Ryan Ornstein(Lupo), Ric Young(Mister Big), Vincent Wong(Minister Tang), Stefan Nelet(Aide #1), Peter Lee(Aide #2)
Review: ジェット・リーのアイデアを基にリュック・ベッソンが脚本を書き(共同脚本)、プロデュースしたアクション映画。ベッソンがパリに設立した映画会社Europa Corp.の製作によるフランス映画だが、米国では20世紀フォックスの配給で3000館規模で公開される予定。監督は新人のクリス・ナオンだが、実際にはベッソンが撮影中べったりと付きっきりでカメラを回したり編集までやっているので、殆どベッソンの映画とも言える。ともかく痛快無比なアクションドラマで、傑作「レオン」に迫る完成度。中国からパリにやってきたエリート刑事(リー)が、フランスの悪徳刑事(チェッキー・カリョ)の策略にはまり、無実の罪で追われるはめになる、というストーリー。冒頭のパリのホテルでのアクションシーン(外観はパリのレジーナ・ホテルだが内部はスイスのホテルを借り切って撮影したらしい)がいかにもベッソンらしくユニークかつスペクタキュラーで、ジェット・リーのアクションもさすがに切れ味がよい(一部のショットでは本当に殴っているらしいが)。彼の格闘アクションは、ジャッキー・チェンのように相手と延々と闘ってやっとこさ倒すのではなく、かつてのブルース・リーのように一撃必殺なのである。これがなかなか痛快。ラスト近くで彼が警察署に素手で殴りこむシーンがあるが、ここでも何十人という相手を棒術でアッという間に倒してしまう(リーは棒術のエキスパートである)。ストーリーは単純で、展開もやや雑な部分があるが、たたみかけるようなスピードとアクションシーンの独創性で最後まで一気に見せきっている。チェッキー・カリョは「レオン」のゲイリー・オールドマンばりにブチ切れた悪徳刑事を演じており、最近の彼の役柄の中ではかなり面白い。薄幸なヒロイン役のブリジット・フォンダはちょっと印象が薄い。彼女とリーの関係がストーリーの一つの軸になっているが、リーのキャラクターがちょうど「レオン」のジャン・レノのように女性に対して不器用でナイーブなところが良い。パリでリーをかくまう中国人の老人に扮しているバート・クウォークは、「ピンクパンサー」シリーズでクルーゾー警部(ピーター・セラーズ)に隙を見ては襲いかかる助手のカトウを演じていた人。クレイグ・アームストロング作曲のスコアは、シンセを主体とした緊張感のあるサスペンスアクション音楽。しかし、パリを舞台にしたフランス映画なのに、中国人のヒーローとアメリカ人の娼婦だけが善人で、フランスの警察官は全部極悪人というストーリーを書くフランス人リュック・ベッソンというのも面白い人である。
Rating: ★★★1/2

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「ヤマカシ」 YAMAKASI
Director: Ariel Zeitoun
Writers: Luc Besson, Philippe Lyon, Julien Seri
Music: Joeystarr et DJ Spank pour B.O.S.S.
Cast: Chau Belle Dinh(Baseball), Williams Belle(L'araignee), Malik Diduf(La belette), Yann Hnautra(Zikmu), Guylain N'guba Boyeke(Rocket), Charles Perriere(Sitting Bull), Laurent Piemontesi(Tango), Maher Kamoun, Bruno Flender, Afida Tahri, Amel Djemel, Nassim Faid, Frederic Pellegeay, Gerarld Morales, Pascal Leger, Jacques Hansen, Perkins, Jean-Pierre Germain, Chlde Flipo, David Tissot, Stephane Boucher, Isabelle Moulin
Review: リュック・ベッソンが原案・脚本・提供を手がけており、彼が以前に製作した「TAXiA」で忍者を演じたフランスのストリートパフォーマー“Yamakasi”のメンバーを主役にしたアクションドラマ(“Yamakasi”とは、コンゴのリンガラ語で“強い精神・肉体を持った強い男”を意味するらしい)。 彼らは抜群の運動神経で高層ビルの壁をよじ昇り、駆けつけた警察の追跡をすり抜けて逃走していく。子供たちはそんな彼らの行動に喝采を送るが、ある日心臓の弱い少年が彼らの真似をしたことで、高所から落下し瀕死の状態に陥る・・。ストーリーはごく単純なので、この“Yamakasi”たちの存在を面白く感じるか、あるいは単に目立ちたがりで自分勝手な若者の集団と感じるかで、この映画に共感して楽しめるか否かがある程度決まってくる。瀕死の子供をあるタイムリミットまでに助けるという設定なので、「TAXiA」のような軽いノリのコメディではなく割とシリアスな内容だが、あまりエモーショナルにドラマに入り込めないのは明確な悪役が登場しないせいだと思う。ここでは政府高官や裕福な医者、警官等の“体制側”のキャラクターが必要以上に“狡猾で嫌な奴ら”あるいは“ドジで間抜けな奴ら”として描かれており、そうすることによって主役の“Yamakasi”たちの存在や行為が強引に正当化されているように感じる。殺し屋や詐欺師といった犯罪者を主役とした映画はよくあるが、彼らは飽くまでプロとしてこれらの仕事をしているのであって、別に“良いこと”をしているとは思っていない。ところが、この映画の主人公たちは空き巣という立派な犯罪を犯しながらも、死にかけている子供を助けるのだから自分たちのやっていることは“良いことだ”と主張する。これが完全なコメディとして描かれていればそれでも構わないと思うが、基本的にはシリアスなトーンなので、やはりこの偽善性が少し気になってしまう。ベッソン流の反体制のメッセージとも取ることができるが、いかがなものであろか。
Rating: ★★1/2

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「メメント」 MEMENTO
Director/Writer: Christopher Nolan
Based on the short story by: Jonathan Nolan
Music: David Julyan
Cast: Guy Pearce(Leonard), Carrie-Anne Moss(Natalie), Joe Pantoliano(Teddy), Mark Boone Junior (Burt), Russ Fega(Waiter), Jorja Fox(Leonard's Wife), Stephen Tobolowsky(Sammy), Harriet Sansom Harris(Mrs.Jankis), Thomas Lennon(Doctor), Callum Keith Rennie(Dodd), Kimberly Campbell(Blonde), Marianne Muellerleie(Tattooist), Larry Holden(Jimmy)
Review: インディ系の映画として当初11館で上映が始まったのが、口コミで評判が徐々に広がり、10週目には531館に拡大、全米興行成績第8位にまでくい込んだ異色作。今年のサンダンス映画祭では脚本賞を受賞した。監督のクリストファー・ノーランは29歳でこの映画を演出しており、この成功でスティーブン・ソダーバーグに認められ、彼が製作する次回作「インソムニア」(アル・パチーノ主演)の監督に抜擢されている。保険調査員のレナード(ガイ・ピアース)の家に何者かが押し入り、彼の妻がレイプされて殺害される。その光景を目撃したことと犯人に頭を殴られたショックで、レナードは“前向性健忘”という珍しい記憶障害になり、その事件以降10分間程度しか新しい記憶を保てなくなってしまう。彼はポラロイド写真にメモを書き込み、事件に関するキーワードを全身に刺青として彫り込むことで独自に犯人を探し出そうとするが・・。“直前の記憶が消失してしまう記憶障害の男”というアイデアをベースに、ちょうどテープを巻き戻すように少しずつ溯ってストーリーが語られて行くという極めて斬新な構成の作品。こういう発想のミステリ映画はこれまでにありそうでない。まさに盲点を突いた着想で実に感心した。この特殊な記憶障害がストーリー中でのちょっとしたトリックにうまく取り込まれているところなど心憎い。ラストが若干説明不足だが、これくらい突き放した方が余韻があって良い。細かいディテールが見事で、少なくとも2回は見たくなる作品。主演のピアース、謎の女に扮するキャリー=アン・モス、怪しい男に扮するジョー・パントリアーノ等の出演者も全て好演している。こういう良質のミステリ映画にたまに巡り会うと非常に嬉しくなる。
Rating: ★★★1/2

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「テイラー・オブ・パナマ」 THE TAILOR OF PANAMA
Director: John Boorman
Writers: Andrew Davies, John Le Carre, John Boorman
Based on the novel by: John Le Carre
Music: Shaun Davey
Cast: Pierce Brosnan(Andrew 'Andy' Osnard), Geoffrey Rush(Harold 'Harry' Pendel), Jamie Lee Curtis(Louisa), Leonor Varela(Marta), Brendan Gleeson(Michelangelo 'Mickie' Abraxas), Harold Pinter(Uncle Benny), Catherine McCormack(Francesca Deane), Daniel Radcliffe(Mark), Lola Boorman(Sarah), David Hayman(Luxmore), Mark Margolis(Rafi Domingo), Martin Ferrero(Teddy), John Fortune(Maltby), Martin Savage(Stormont), Edgardo Molino(Juan-David), Jonathan Hyde(Cavendish), Dylan Baker(General Dusenbaker), Paul Birchard(Joe), Harry Ditson(Elliot), Ken Jenkins(Morecombe), Adolfo Arias Espinosa(President), Juan Carlos Adames(Marco), Luis A. Goti(Ernesto 'Ernie' Delgado), Heather Emmanuel(Esmeralda)
Review: 「寒い国から帰ったスパイ」「リトル・ドラマー・ガール」「ロシア・ハウス」等のスパイ小説作家ジョン・ル・カレによる原作「パナマの仕立屋」を「エクスカリバー」等のベテラン、ジョン・ブアマン監督が映画化したドラマ(ル・カレが自ら脚色している)。女とギャンブルで身を持ち崩し、南米のパナマに飛ばされたしまったMI6の諜報員アンディは、1999年末をもってアメリカから運河の所有権を返還された同国の政情を探ることを命じられる。彼は政府要人御用達の仕立屋ハリーに近づき、情報収集に協力させようとするが・・。ハリーから入手したパナマ運河に係わる情報をもとにアンディが一儲けしようと企んだことから、米軍の出動にまで発展する後半の展開は面白いが、全体としてはさほど凝ったストーリーではない。むしろ、ボンド役とは毛色の違う退廃的で狡猾なスパイを演じるピアース・ブロスナン、彼に弱みを握られ泥沼にはまっていく小心者の仕立屋を演じるジェフリー・ラッシュ、仕立屋の知性的な妻を演じるジェイミー・リー・カーティスの3人による絶妙のキャラクタライゼーションと抑えた演技が見所となっており、あまり強いドラマ性やインパクトはないものの、熟練した演出・演技陣による“映画らしい映画”になっている。回想的に登場するハリーの叔父の役をイギリスの劇作家ハロルド・ピンターが演じている。「十二夜」「ウェイクアップ!ネッド」等のショーン・デイヴィによる音楽は、オーソドックスなオーケストラルスコアに南米風の味付けを加えたもので、劇中では効果的だった。脚本に参加しているアンドリュー・デイヴィスは「逃亡者」等の監督とは別人。
Rating: ★★★

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「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」 THE MUMMY RETURNS
Director/Writer: Stephen Sommers
Music: Alan Silvestri
Cast: Brendan Fraser(Rick O'Connell), Rachel Weisz(Evelyn Carnahan O'Connell/Princess Nefertiri), John Hannah(Jonathan Carnahan), Arnold Vosloo(High Priest Imhotep), Oded Fehr(Ardeth Bay), Patricia Velazquez(Meela/Anck Su Namun), Freddie Boath(Alex O'Connell), Alun Armstrong(Curator), Dwayne "The Rock" Johnson(The Scorpion King), Adewale Akinnuoye-Agbaje(Lock-Nah), Shaun Parkes(Izzy), Bruce Byron(Red), Joe Dixon(Jacques), Tom Fisher(Spivey), Quill Roberts(Shafek), Donna Air(Show Girl), Trevor Lovell(Mountain of Flesh)
Review: 1933年、イヴリンと結婚し息子のアレックスと3人で幸せに暮らすリック・オコンネルは、とある遺跡で伝説の戦士スコーピオン・キングの腕輪を発見する。一方、前作で滅びた邪悪な高僧イムホテップを蘇らそうと企む一味は、スコーピオン・キングの配下のアヌビスの軍隊を掌握して世界を征服すべく、腕輪を求めてロンドンのオコンネル宅を襲撃する。腕輪をはめたアレックスを一味に誘拐されたリックとイヴリンは、一味を追ってエジプトへと向かう・・。ノンストップ・アクションを売り物にした極めて騒々しいアドヴェンチャー映画だが、次々と登場するアクションシーンの演出に独創性や工夫がないので、非常にメカニカルな印象がある。アクション以外の会話シーン等も実に平凡で、ストーリー展開のテンポがそういうシーンの度に鈍る。このストーリーのリズムの緩急自在なコントロールが、スピルバーグのような一流監督とソマーズのような二流監督との決定的な違いであろう。全編にCGIによるSFXがびっしりと敷きつめられているが、仕上げがかなり雑な部分があり、大画面で見るとちょっと気になる。ラストのスコーピオン・キングのCGIも、いかにも「CGです」という感じの質感・動きで興醒めしてしまう。最も迫力があるのはイヴリンとミーラとの女同士の格闘シーンだったりして、SFX以外の生身のアクションの方がかえって見応えがある。悪役が複数登場するのでストーリーの焦点がぼやけている気がするが、ラストのイムホテップはなんとも哀れで、逆に彼に同情してしまう(第一彼の方が主人公のリックより演じている役者が男前である)。アラン・シルヴェストリのスコアは、ずーっと鳴りまくっているが、さほどうるさく感じないのはベテランの上手さだろう。
Rating: ★★1/2

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「ウォーターボーイズ」 WATER BOYS
監督・脚本: 矢口史靖
音楽: 松田岳二、冷水ひとみ
出演: 妻夫木 聡、玉木 宏、三浦哲郁、近藤公園、金子貴俊、平山 綾、眞鍋かをり、竹中直人、杉本哲太、谷 啓、柄本 明、他
Review: 埼玉県立川越高校の文化祭で実際に13年も続いている“男のシンクロナイズドスイミング”をモデルにした青春コメディ。ひょんなことから学園祭でシンクロを発表することになってしまった平凡な男子高校生5人(妻夫木、玉木、三浦、近藤、金子)のひと夏の物語を描く。監督は1967年生まれ(34歳)の矢口史靖。内容的には演出も演技もせいぜい“よく出来た学生映画”といったレベルだが、監督・キャストのパワーとエネルギーを感じさせる(特に後半)。他愛ないと言ってしまえばそれまでだが、ここまでノー天気な善意に満ちた日本映画は最近珍しいのでは? ラストの延々と続く主人公たちのシンクロの演技もなかなか壮観だが、途中の練習の過程であまり演技の内容を見せないところが良い。ただ、こういう日本製青春ドラマの若手俳優たちの演技を見ていると、同種のアメリカ映画に出て来る若手の役者たちの方が抜群に芸達者なことを痛感させられる。層の厚さとプロ意識の違いだろうか・・。脇で出て来る竹中直人がハチャメチャ演技をしているが、変に真面目な役よりこういう役の方が嫌味がなくてよい。柄本 明の女装姿はグロテスクすぎて笑えない。主人公の恋人役、平山 綾の笑顔が爽やか。フィンガー5の「学園天国」がシンクロのシーンのクライマックスとエンドクレジットに使われていて、なんとも懐かしい。製作は「Shall we ダンス?」等のアルタミラピクチャーズ。矢口監督の今後の活躍に期待したい。
Rating: ★★1/2

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「エボリューション」 EVOLUTION
Director: Ivan Reitman
Writers: David Diamond, David Weissman, Don Jakoby
Music: John Powell
Cast: David Duchovny(Ira Kane), Julianne Moore(Allison Reed), Orlando Jones(Harry Block), Seann William Scott(Wayne Green), Ty Burrell(Flemming), Ted Levine(Dr. Woodman), Dan Aykroyd(Governer), Michael Bower(Danny Donald), Wendy Braun(Nurse Tate), Wayne Duvall(Dr. Paulson), Ethan Suplee(Deke), Sarah Silverman, Katharine Towne
Review: 「ゴーストバスターズ」等のアイヴァン・ライトマンが監督したSFコメディで、ソニー・ピクチャーズとしては今年最大の目玉作品(らしい)。アリゾナに落下した隕石には急激なスピードで進化していくエイリアンが宿っていた。第一発見者から連絡を受けた地元のコミュニティカレッジの科学教授(デヴィッド・ドゥカヴニーとオーランド・ジョーンズ)はエイリアンの標本を採取して独自に調査を始めるが、事態を察知した米軍調査部隊が現場に乗り込んできて彼らを妨害する。あっという間に繁殖するエイリアンを米軍はナパーム弾で焼き払おうとするが、その攻撃が更に事態を悪化させることを知った主人公たちは、独自の作戦でエイリアンを退治しようとする・・。単細胞生物から多細胞へ、昆虫へ、爬虫類へ、霊長類へと地球では何10億年もかかる進化を数日で実現してしまうエイリアンというアイデアは面白い。が、白人と黒人の主役コンビがエイリアンと闘う、という図式はどうしても「MIB」の亜流という印象があるし、この2人の息もあまり合っているとは思えない(ドゥカヴニーにはコメディのセンスが全くない)。ジュリアン・ムーアがやたらとずっこける女性科学者をコミカルに演じているが、彼女もコメディエンヌには向いていないようであまり笑えない。ライトマンの演出も、本来もっとフランティックにたたみかけるべき部分で中だるみしてしまうので、全体的に散漫な印象がある。「ゴーストバスターズ」の主役だったダン・アイクロイドがアリゾナ州知事役で登場するが、この人は出て来るだけで可笑しい。名手フィル・ティペットによる様々なエイリアンのSFXは相変わらず安定した仕事だが、こういうエイリアンのデザインやエフェクツはもうやり尽くしている感じで、新鮮味はほとんどない。ジョン・パウエルのスコアは部分的に流れる勇壮なメロディがやはりハンス・ジマー調。他社の大作が目白押しの中で、ソニーとしてこれが最もメジャーな作品というのはいかにも弱い気がする。目玉が3つあるスマイルマークがこの映画のシンボルマークになっていて、プロモーションでもメインヴィジュアルとして使用されているが、実際の映画では最後の瞬間にチラっと出るだけだった。
Rating: ★★1/2

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<2001年5月>

 

「トラフィック」 TRAFFIC
Director: Steven Soderbergh
Writer: Stephen Gaghan
Music: Cliff Martinez
Cast: Steven Bauer(Carlos Ayala), Michael Douglas(Robert Hudson Wakefield), Benjamin Bratt(Juan), Don Cheadle(Montel Gordon), Jsu Garcia(Pablo), Benicio Del Toro(Javier Rodriguez Rodriguez), James Brolin(General Ralph Landry), Dennis Quaid(Arnie Metzger), Erika Christensen(Caroline Wakefield), Catherine Zeta-Jones(Helena Ayala), Luis Guzman(Ray Castro), Clifton Collins Jr.(Francisco Flores), Miguel Ferrer(Eduardo Ruiz), Albert Finney(Chief of Staff), Topher Grace(Seth Abrahams), Amy Irving(Barbara Wakefield), Beau Holden(Cal-Trans), Tomas Milian(General Arturo Salazar), Peter Riegert(Attorney Michael Adler), Jacob Vargas(Manolo Sanchez), Joel Torres(Porfirio Madrigal), D.W. Moffett(Jeff Sheridan), Salma Hayek(Madrigal's Mistress)
Review: 本年度アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、監督賞、助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ)、脚色賞、編集賞を受賞したサスペンスドラマ。メキシコとアメリカを結ぶ巨大な麻薬ルートを背景に、メキシコのティファナで麻薬カルテルの壊滅に協力する警官ハビエール(デル・トロ)、アメリカのオハイオで麻薬取締最高責任者に任命された判事ロバート(マイケル・ダグラス)、同サンディエゴで、夫を麻薬密輸の嫌疑で突然逮捕されてしまった妻(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の3人のドラマが並行して複雑に交差しながら描かれる。ソダーバーグ監督は敢えてドキュメンタリー的な手法で演出しており、上記3箇所のロケーションによって色調を変えた映像や手ぶれ気味のカメラ等、安易ではあるが効果的なテクニックを使っている(撮影監督としてクレジットされているピーター・アンドリュースはソダーバーグ本人)。ところが、描かれているドラマ自体にあまりリアリティがない。ダグラス扮する判事と彼の麻薬中毒の娘とのエピソードはごくありきたりな展開で、その結末もちょっと楽観的すぎて現実味がない。ゼタ・ジョーンズはもともと夫が麻薬密輸に係わっていることすら知らなかった普通の主婦という設定だが、彼女の後半の大胆な変貌ぶりも作り話的で違和感がある。これらに比べ、デル・トロのキャラクターは非常にリアリスティックで強い存在感があり、見る者の共感を呼ぶ。自然な演技も素晴らしい。脇で出て来るジェームズ・ブローリン、アルバート・フィニー、ミゲル・フェラー(この人はいつもろくな死に方をしない)、トーマス・ミリアン等ベテラン俳優のキャスティングも絶妙。デ・パルマ監督の「フューリー」でヒロインを演じたエイミー・アーヴィングが、ダグラスの妻の役で出ていて懐かしかった。サルマ・ハイエックが麻薬王の愛人役でカメオ出演しているが、見るからに安っぽい。2時間28分の上映時間はさすがに長く感じるが、中心となるデル・トロのエピソードのドラマ性がしっかりしているので、全体としての印象は良い。ただ、結末がちょっと安易なハッピーエンドで、やはり“ハリウッド・プロダクツ”という感じがしてしまう。
Rating: ★★★

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「スターリングラード」 ENEMY AT THE GATES
Director: Jean-Jacques Annaud
Writers: Jean-Jacques Annaud, Alain Godard
Music: James Horner
Cast: Jude Law(Sgt. Vassili Zaitsev), Joseph Fiennes(Commissar Danilov), Rachel Weisz(Sgt. Tania Chernova), Bob Hoskins(Chief Commissar Nikita Sergeyevich Khrushchev), Ed Harris(Major Erwin Konig), Ron Perlman(Nikolai Koulikov), Eva Mattes(Mother Filipov), Gabriel Thomson(Sasha Fillipov), Matthias Habich(General Friedrich von Paulus), Sophie Rois(Ludmilla), Ivan Shvedoff(Volodya), Mario Bandi(Anton), Hans Martin Stier(Red Army General), Clemens Schick(German Nomcom), Mikhail Matveyev(Grandfather), Alexander Schwan(Young Vassili), Lenn Kudrjawizki(Comrade in Train)
Review: 第二次大戦中のロシア東部戦線を舞台に、ドイツ軍の猛攻に押され気味のロシア軍が兵士達の士気を鼓舞するために祭り上げた射撃の名手ヴァシリ(ジュード・ロウ)と、彼を倒すべくドイツ軍が送り込んだシャープシューターのケーニッヒ少佐(エド・ハリス)との対決を主軸に、青年政治将校ダニロフ(ジョセフ・ファインズ)とヴァシリとの友情、そしてロシアの女性兵士タニア(レイチェル・ワイズ)とヴァシリとのロマンスを描くドラマ。ヴァシリとケーニッヒの2人が互いに相手を狙い撃ちするシーンはなかなか緊張感があるが、映画全体としてはドラマ性が薄く虚ろな印象のある作品。非常にドラマティックになり得る題材だと思うが、全く感情的に入り込めずフラットな感じがするのは、アノーの演出に問題があるのだろう。ロシア軍とドイツ軍の市街戦シーン等は極めてリアリスティックで迫真性があるのだが、ここまでリアルに描写していても、登場するロシア人とドイツ人が全員英語を話しているのは“迫真のリアリティの中の白々しい嘘”という感じして、やはり違和感がある。出演者の中では、ドイツ軍人役のエド・ハリスが抜群に良いが、この人は昔から全く印象が変わらない(太らないし痩せないし老けない)のに驚かされる。フルシチェフ役のボブ・ホスキンスも短い出番にもかかわらず存在感がある。ジェームズ・ホーナーの音楽は例によってどこかで聴いたことがあるフレーズのオンパレードだが、特に何度も繰り返し演奏される「シンドラーのリスト」にそっくりな曲にはちょっと呆れてしまった。
Rating: ★★1/2

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<2001年4月>

 

「みんなのいえ」
監督・脚本: 三谷幸喜
音楽: 服部隆之
出演: 唐沢寿明、田中邦衛、田中直樹、八木亜希子、伊原剛志、白井 晃、八名信夫、江幡高志、井上昭文、榎木兵衛、松山照夫、松本幸二郎、野際陽子、吉村実子、清水ミチコ、山寺宏一、中井貴一、布施 明、近藤芳正、遠藤章造、梶原 善、戸田恵子、梅野康靖、小日向文世、松重 豊、佐藤仁美、エリカ・アッシュ、他
Review: テレビドラマの脚本家(田中直樹)と中学校の美術教師(八木亜希子)の夫婦が、土地を手に入れて一軒家のマイホームを建てることにするが、家の設計を担当する妻の友人で新進気鋭のインテリアデザイナー(唐沢寿明)と、施工を担当する妻の父親で職人気質の大工(田中邦衛)の意見がことごとく対立し、現場は混乱を極めていく・・。ストーリーのベースになるのは、互いに全く違う価値観にこだわる頑固者のデザイナーと大工が、ぶつかり合いながらも実は似た者同士であることをだんだんと認識していくというドラマであり、これに、二人の間に挟まって右往左往する優柔不断な夫のコミカルな描写が加わる。この3人のキャラクターは(ごく類型的ではあるが)よく描けている。ところが彼ら以外の登場人物は、八木演じる妻も含めて非常に表面的で印象が薄い。三谷幸喜は、演じる役者のイメージに合わせてドラマの中のキャラクターを創造していくタイプの脚本家で、彼の前作「ラヂオの時間」では、多数の登場人物が脇役に至るまで実に活き活きと描けていた。が、この映画では芸達者な俳優を多数使いながらも、残念ながら彼らのキャラクターをうまく描写しきれていない。デザイナーと大工が和解していく過程も、あまりにも話が出来すぎていて、あれほど対立していたのにこんなにあっさり仲良くなるものか、と少し疑問を感じてしまう。明石屋さんま、真田広之、香取慎吾等がノン・クレジットでカメオ出演しているが、彼らの方がちゃんとクレジットされている脇役たちより印象が強かったりする。コメディを得意とする三谷の作品にしては笑いの要素も少ない(中井貴一が本人役で登場するドラマ撮影シーンの繰り返しギャグもあまり笑えない)。イラストレーターの和田 誠氏がバーの客の役でチラっと出ているが、カメラを意識しすぎでいかにも素人くさいのに笑ってしまう(ただしこれは意図せぬ笑い)。三谷の脚本によるテレビドラマを多数担当している服部隆之の音楽は、やはり「テレビドラマの音楽」といった印象しかない。
Rating: ★★1/2

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「愛のエチュード」 THE LUZHIN DEFENCE
Director: Marleen Gorris
Writer: Peter Berry
Based on the novel by: Vladimir Nabokov
Music: Alexandre Desplat
Cast: John Turturro(Luzhin), Emily Watson(Natalia), Geraldine James(Vera), Stuart Wilson(Valentinov), Christopher Thompson(Stassard), Fabio Sartor(Turati), Peter Blythe(Ilya), Orla Brady(Anna), Mark Tandy(Luzhin Father), Kelly Hunter(Luzhin Mother), Alexander Hunting(Young Luzhin)
Review: 「ロリータ」で知られるロシアの作家ウラジミール・ナボコフの初期の小説「ディフェンス」の映画化。1929年のイタリア北部コモ湖畔を舞台に、チェスの世界トーナメントに出場するためにやって来た天才的なチェスプレイヤーのルージン(ジョン・タトゥーロ)と、偶然その場所を訪れていた上流階級の令嬢ナターリア(エミリー・ワトソン)との恋愛を描くラブストーリー。といっても単なるラブストーリーではなく、人間的にもろく、ちょっとしたプレッシャーで簡単に壊れてしまうルージンが、いかにしてチェスのトーナメントに勝ちナターリアと幸せに結ばれるか、というサスペンスになっているところが上手い。そこにステュアート・ウィルソン(「リーサル・ウェポン3」のナスティな汚職刑事や、「マスク・オブ・ゾロ」の高貴な悪役等、様々なワルが演じられる役者)がルージンを陥れる策略を講じたりして(ルージンはまたこれに簡単に引っかかる)、いよいよサスペンスは高まる。つまりこれは淡いラブストーリーの形を借りたサスペンス映画になっていて、最後まで息つく暇もない。私はナボコフの原作を読んでいないので筋は知らなかったが、ラストがこのような結末になるとは予想しなかった。途中でルージンのあまりの単純さにイライラさせられる部分があるが、監督はその「イライラ」も計算ずくである。なぜなら見終った後にはその不満を凌駕する感動と爽快感が残るからで、この演出の巧みさには感心した。オランダ出身の監督マルレーン・ゴリスは「ダロウェイ夫人」等でアート系の映像作家と評価されているのだろうが、彼女は立派に娯楽映画を撮れる監督だと思う。主演のタトゥーロとワトソンも例によって素晴らしい。アレクサンドル・デスプラの音楽はロンドン・シンフォニーの演奏による流麗でクラシカルなスコアだが、サントラ盤を先に買って音楽単独で聴いたら全く印象に残らなかった。ところが今回映画と一緒に聴いてみると、これが見事にはまっている。映画音楽の愉しみはこういうところにもあると思う。
Rating: ★★★

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「ハンニバル」 HANNIBAL
Director: Ridley Scott
Writers: David Mamet, Steven Zaillian
Based on the novel by: Thomas Harris
Music: Hans Zimmer
Cast: Anthony Hopkins(Dr. Hannibal "The Cannibal" Lecter), Julianne Moore(FBI Agent Clarice Starling), Gary Oldman(Mason Verger), Giancarlo Giannini(Inspector Rinaldo Pazzi), Ray Liotta(Paul Krendler), Frankie Faison(Barney), Ennio Coltorti(Ricci), Francesca Neri(Allegra Pazzi), Robert Rietti(Sogliato), Francis Guinan(Assistant Director Noonan), Bruno Lazzaretti(Dante), Danielle de Niese(Beatrice), James Opher(FBI Agent Eldridge), Enrico Lo Verso(Gnocco), Alex Corrado(Piero), Sam Wells(TV Anchorman), David Andrews(Clint Pearsall), Fabrizio Gifuni(Matteo), Hazelle Goodman(Evelda Drumgo), Zeljko Ivanek(Dr. Cordell Doemling), Marco Greco(Tommaso), Terry Serpico(Officer Bolton), Ivano Marescotti(Carlo)
Review: 前作「羊たちの沈黙」は演出・脚本・演技の全てが一流の優れたサスペンス映画だった。この続編は前回オスカーを受賞したアンソニー・ホプキンスがハンニバル・レクター役を再度演じているので、それなりに期待していたのだが、前作と同様に素晴らしいのはこのホプキンスの存在くらいで、それ以外は全て平凡な出来。監督のリドリー・スコットはもともと作品の質にムラがある人だが、脚本に「アンタッチャブル」「スパニッシュ・プリズナー」等のデヴィッド・マメットと「シンドラーのリスト」等のスティーヴン・ザイリアンがクレジットされている割には、サスペンスも展開の意外性もあまりない平坦なストーリー。極めてグロテスクなシーンがいくつかあり、そこが話題にもなっているが、演出に独創性がないので見ていて単に不快なだけである。ジョディ・フォスターが断ったクラリス捜査官の役をジュリアン・ムーアが演じており、本人はなかなか熱演していると思うが、どうもこの女優はいつ見てもくたびれた印象があり、あまり魅力を感じない。イタリアの地元俳優ジャンカルロ・ジャンニーニが刑事役で出てくるが、せっかくいい味のある役者なのに情けない役で気の毒。レクターの宿敵である大富豪役のゲイリー・オールドマンも、全編が彼だと見分けのつかない特殊メイク顔で、もったいない使い方。レイ・リオッタにいたっては、よくこんな酷い役を引き受けたものである。彼の俳優としてのキャリア中でも最悪の役だろう。ハンス・ジマーの音楽はクラシックやオペラを取り入れたどちらかといえば抑えたタッチのスコアだが、あまり印象に残らない。そもそもクラシック音楽を安易に使ってそれらしい風格を持たそうとする手法はあまり好きではない(監督の指示であれば仕方がないが)。堂々と自分の音楽で勝負してほしい。
Rating: ★★1/2

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「メトロポリス」 METROPOLIS
監督: りんたろう
脚本: 大友克洋
原作: 手塚治虫
音楽: 本多俊之
声の出演: 井元由香、小林 桂、岡田浩揮、富田耕生、石田太郎、若本規夫、滝口順平、池田 勝、土師孝也、古川登志夫、千葉 繁、江原正士、青野 武、八代 駿、井上倫宏、他
Review: 手塚治虫が50年前に書いたSF漫画「メトロポリス」を、りんたろう、大友克洋といった日本を代表するクリエーターたちが映画化したアニメ大作。人間とロボットが共存する超近代的な巨大都市国家メトロポリスを舞台に、ある事件を追って私立探偵の叔父と共にやって来た少年ケンイチが、都市の支配者レッド公によって地下で密かに開発されていたロボット“ティマ”とめぐり会い、次第に心を通わせていくが・・。ロボットと人間との確執、繁栄する地上都市と貧困にあえぐ地下都市の二重構造、といった古典的なSFのテーマが織り込まれたストーリーだが、話自体がいかにも古風(50年前の原作だから仕方がないが)な上に、展開が冗長で演出に緊張感がなく、1時間47分の上映時間が非常に長く感じる。中盤は政治結社の若手リーダー、ロックによるケンイチとティマの追跡が延々と続くが、この悪役のキャラクター(原作にはない)がまるでチンピラで迫力がなく、追跡に全くサスペンスが生まれない。レッド公、大統領、マッドサイエンティスト、反体制派リーダーといった脇役のキャラクター設定も実に平凡。CGを駆使した緻密な都市のアニメーション表現はなかなか壮観だが、最近のディズニー等の洋画アニメの高度な技術を見慣れた観客にはさほど新鮮味はないだろう。何十年も前から洋画の吹替で活躍している富田耕生、滝口順平、青野 武といったベテラン声優たちが出演しているが、彼らの特徴ある声質が昔と全く変わっていないのには驚かされる。本多俊之によるディキシーランド・ジャズの音楽はちょっとやりすぎであまり感心しない。音楽の内容自体に独創性がない上、やたらと鳴りまくるので非常にうるさく感じる。
Rating: ★★1/2

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<2001年3月>

 

「ギフト」 THE GIFT
Director: Sam Raimi
Writers: Billy Bob Thornton, Tom Epperson
Music: Christopher Young
Cast: Cate Blanchett(Annie Wilson), Giovanni Ribisi(Buddy Cole), Keanu Reeves(Donnie Barksdale), Katie Holmes(Jessica King), Greg Kinnear(Wayne Collins), Hilary Swank(Valerie Barksdale), Michael Jeter(Gerald Weems), Kim Dickens(Linda), Gary Cole(David Duncan), Rosemary Harris(Annie's Granny), J.K. Simmons(Sheriff Johnson), Chelcie Ross(Kenneth King), John Beasley(Albert Hawkins), Lynnsee Provence(Mike Wilson), Hunter McGilvray(Miller Wilson), Nathan Lewis(Cornelius), Benjamin Peacock(Tommy), Alex Lee(Paul Dean), Clay James(Stanley), David Brannen(Ben Wilson), Danny Elfman(Tommy Lee Ballard)
Review: サム・ライミ監督の新作で、彼の「シンプル・プラン」に出演したビリー・ボブ・ソーントンが脚本を書いている。ジョージア州のとある小さな町を舞台に、若い女性の失踪事件の捜査に協力することになった予知能力を持つ占い師の女性(ケイト・ブランシェット)を描く超自然スリラー。ライミ監督の映画は特に好きでも嫌いでもないが、この作品は(この手のジャンルを得意とする彼としては)超自然的な描写が極めて陳腐だし、ミステリというほど謎も深くないし、サスペンスというほど緊張感もない、という非常に中途半端な出来で、何よりも展開がノロノロしていて途中で退屈してしまうのが困りものである。不愉快な出来事が次々と起こるのを単にダラダラと描いているだけ、といった感じで、そもそもなぜこんな内容の映画を作りたかったのか、というのがよくわからない。唯一感心したのはキャスティングで、ケイト・ブランシェットは陰気で薄幸な主人公がまさにはまり役だし、脇で出てくるキアヌ・リーヴス(妻を虐待する粗野な男の役)、ヒラリー・スワンク(虐待される妻役)、グレッグ・キニア、ジョヴァンニ・リビシ等も適役だと思う。これだけのキャストがよくこの脚本で出演をOKしたものである。「シンプル・プラン」の音楽を担当した映画音楽作曲家のダニー・エルフマンがリーヴスの隣に住むバイオリン弾きの役でチラっと出てくるが、実に奇妙な役柄で笑ってしまう。この映画の音楽を書いたのはエルフマンではなくクリストファー・ヤングだが、アメリカ南部風の味付けをしたストリングス主体のサスペンス音楽で、映画の雰囲気にはよく合っている。
Rating: ★★

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「プルーフ・オブ・ライフ」 PROOF OF LIFE
Director: Taylor Hackford
Writer: Tony Gilroy
Music: Danny Elfman
Cast: Meg Ryan(Alice Bowman), Russell Crowe(Terry Thorne), David Morse(Peter Bowman), Pamela Reed(Janis Goodman), David Caruso(Dino), Anthony Heald(Ted Fellner), Stanley Anderson(Jerry), Gottfried John(Kessler), Alun Armstrong(Wyatt), Michael Kitchen(Ian Havery), Margo Martindale(Ivy), Mario Ernesto Sanchez(Fernandez), Pietro Sibille(Juaco), Vicky Hernandez(Maria), Norma Martinez(Norma), Diego Trujillo(Eliodoro), Aristoteles Picho(Sandro), Sarahi Echeverria(Cinta), Carlos Blanchard(Carlos), Raul Rodriguez(Tomas), Mauro Cueva(Rico), Alejandro Cordova(Rambo), Sandro Bellido(Mono), Miguel Iza(ELT Officer), Roberto Frisone(Calitri), Tony Vasquez(Fred/Marco), Claudia Dammert(Ginger), Rowena King(Pamela), Michael Byrne(Luthan), Jaime Zevallos(Nino), Gilberto Torres(Raymo)
Review: アメリカの大手石油会社から派遣され、南米のとある国でダム建設に従事する技術者(デヴィッド・モース)が現地のゲリラに誘拐され身代金を要求される。彼の妻(メグ・ライアン)は、石油会社の契約先の保険会社から送り込まれてきた人質救出の交渉人(ラッセル・クロウ)に協力し、夫を助けだそうとする・・。この映画での共演をきっかけとしたライアンとクロウの実生活での不倫話ばかりが話題になった作品だが、映画自体はサスペンスも感動もない凡作。まずストーリーの重要な要素であるはずの、犯人側とクロウとの人質救出交渉の過程に全く知性を感じさせない。主人公は交渉のプロのはずだが、途中で犯人側からの連絡が途絶えてしまい途方にくれていたところに、全くの偶然から犯人側の身元が判明するという、あまりにもご都合主義的な展開に呆れてしまう。もう一つの重要な要素であるクロウとライアンとの恋愛感情もなんだかぼんやりとした描き方で、彼らがお互い何を考えているのかよくわからない。よって見ている方も誰にどう感情移入していいのかわからないまま、映画は終わってしまう。終盤の人質救出シーンは突然「ランボー/怒りの脱出」風のアクションになるが、演出の歯切れが悪く緊張感もあまりない(少なくとも「ランボー・・」のアクションシーンにはカタルシスがあった)。デヴィッド・カルーソーの演じるクロウの同業者役は本来もっとかっこいいキャラクターだと思うが、残念ながら役者に全く精彩がない。こういう脇役がストーリーを引き締めるので、もっとしっかりキャスティングしてもらいたい。ライアンもクロウもこの映画では冴えないが、人質となる夫役のモースが唯一好演している。ダニー・エルフマンのスコアは重厚なサスペンス音楽だが、なぜか彼のいつもの個性が全く感じられない。たとえばJ・N・ハワードが書いたスコアだと言われてもあまり違和感がないだろう。
Rating: ★★

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「JSA」 JSA(Joint Security Area)
監督: パク・チャヌク
脚本: キム・ヒョンスク、チョン・ソンサン、イ・ムヨン、パク・チャヌク
原作: パク・サンヨン「DMZ」
出演: ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イ・ヨンエ、キム・テウ、シン・ハギュン他
Review: 韓国で「シュリ」の記録を超えて同国映画興行史上最大のヒットとなった作品(「シュリ」はストーリーの設定に無理がある気がしてあまり感心しなかったが・・)。題名の「JSA」は南北朝鮮を分断する板門店の「共同警備区域」のことで、このJSAでおきた北朝鮮兵射殺事件の真相を調査するために中立国監督委員会から派遣されてきた韓国系スイス人の女性将校(イ・ヨンエ)と、事件に係わった南北兵士たち4人を描いたドラマ。南北兵士たちの友情をめぐる人間ドラマを主軸に、南北間の一触即発のサスペンスと謎解きのミステリの要素を加えたなかなか見応えのある作品となっている。こういうセンシティブなテーマを扱って立派なエンターテインメント作品に仕上げてしまうところが凄いし、何よりも、韓国映画でありながら南北が完全に対等に描かれている点に感心した(「シュリ」では北朝鮮は飽くまで悪役だった)。また、全体の構成が、事件の謎が提示される序盤(ここでは「羅生門」のように南北兵士の供述がくい違う)、事件の経緯が南北兵士たちの回想形式で描かれる中盤、そして謎が全て解き明かされる終盤という3部形式となっているところも上手い。主要な登場人物は5人だけだが、それぞれのキャラクターが実にしっかりと描かれており、演じている俳優たちも皆存在感がある。特に北朝鮮の士官を演じるソン・ガンホ(「シュリ」で主人公の相棒の刑事を演じた役者)が非常にいい味を出している。またヒロインである女性将校役のイ・ヨンエは、美人だし演技も堂々としたものである。ただ、人間ドラマの部分をかなり強調して演出されているため、謎解きがいまひとつ中途半端なのと、南北対立の緊張感がさほど感じられない点が惜しい。北の兵士が南の兵士からもらったロッテのチョコパイ(韓国では唯一軍隊で支給されるお菓子らしい)を美味しそうに食べるエピソードが印象的。音楽はオーケストラとシンセの組合わせだが、でしゃばることなくドラマをサポートする効果的なアンダースコアだった。
Rating: ★★★

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「タイタンズを忘れない」 REMEMBER THE TITANS
Director: Boaz Yakin
Writer: Gregory Allen Howard
Music: Trevor Rabin
Cast: Denzel Washington(Coach Herman Boone), Will Patton(Coach Bill Yoast), Wood Harris(Julius "Big Ju" Campbell), Ryan Hurst(Gerry Bertier), Donald Adeosun Faison(Petey Jones), Craig Kirkwood(Jerry "Rev" Harris), Ethan Suplee(Lewis Lastik), Kip Pardue(Ronnie "Sunshine" Bass), Hayden Panettiere(Sheryl Yoast), Nicole Ari Parker(Carol Boone), Kate Bosworth(Emma Hoyt), Earl Poitier(Blue Stanton), Ryan Gosling(Alan Bosley), Burgess Jenkins(Ray Budds), Neal Ghant(Glascoe), David Jefferson(Cook), Preston Brant(Jerry Buck), John Michael Weatherly(Kirk Barker), Gregory Alan Williams(Coach "Doc" Hinds), Brett Rice(Coach Tyrell), Richard Fullerton(A.D. Watson), Sean Treadaway(Sports Commentator/PA Announcer)
Review: いわゆる"Crowd-Pleaser"と呼ばれるスポーツ感動もので、実話に基づいたストーリー。1971年のアメリカ、人種偏見が根強く残るヴァージニア州の田舎町を舞台に、白人の高校と黒人の高校が統合されたことで白人と黒人の混成となったフットボール・チーム"タイタンズ"が、新任の黒人コーチ(デンゼル・ワシントン)の下、人種の壁を越えて団結し、勝ち進んでいく・・。同じ実話に基づいた高校スポーツ感動映画でジーン・ハックマンがバスケットボール・チームのコーチを演じた「勝利への旅立ち」という傑作があったが、この「タイタンズ・・」の方はディズニー製作(しかもプロデュースがジェリー・ブラッカイマー)のせいか、より単純明快なファミリーピクチャー的な作りになっている。ワシントンがカリスマ的なコーチを例によって力強く演じているが、「勝利への・・」のハックマンのコーチの方が人間的な弱さを感じさせて良かったと思う。実話をベースにしているとは言うが、人種差別の描写や、フットボール・チームの白人と黒人がだんだんと心を通わせるようになる過程の描写が非常に恣意的で、いかにも"ハリウッド・プロダクツ"という感じがする。それでも試合のシーン等は計算された演出できちんと盛り上げるし、それなりに感動させるのだから大したものである。トレヴァー・ラビンの音楽はこの手の感動ものにふさわしい力のこもったスコアだが、劇中ではちょっと鳴りすぎでうるさい印象がある。音楽単独で聴いた方がいいかもしれない。
Rating: ★★★

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「BROTHER」 BROTHER
監督・脚本: 北野 武
音楽監督: 久石 譲
出演: ビートたけし、オマー・エプス、真木蔵人、加藤雅也、大杉 漣、寺島 進、石橋 凌、渡 哲也、ロイヤル・ワトキンズ、ロンバルド・ボイヤー、タティアナ・M・アリ、他
Review: この映画を配給している松竹の人によると、最近の若者はヒットした「バトル・ロワイヤル」を「たけしの(監督した)映画」だと思っているらしく、その勢いでこちらの(本当に監督した)映画にも結構客が入っているらしい。抗争で逃げ場を失ったヤクザの山本(たけし)は、弟のケン(真木)を尋ねてLAにやって来るが、留学中のはずのケンは友人のデニー(エプス)たちと麻薬の売人になっていた。山本は麻薬取引の現場でケンたちの危機を救い、これをきっかけにLAの裏組織との血で血を洗う抗争に突入していく・・。日本の任侠の世界を外国人にもわかりやすく描いた映画、といった感じだが、この手の作品は日本のヤクザ役の俳優が凄むとみんな同じ演技になってしまうのがどうも不思議である。同じギャング映画でもアル・パチーノの凄み方とデ・ニーロの凄み方は違うと思うのだが・・。むしろ大親分役でカメオ出演している渡 哲也の抑えた演技に迫力がある。こういう人が一番怖い。たけしの演出は非常に乾いたタッチで、暴力描写も激しいが、アクション映画的な演出ではないのでカタルシスはあまりない。山本とデニーの友情が後半のストーリーの主軸になっているが、この描き方も淡々としている。画面が斜めに傾いた構図や、人の顔の部分が中途半端に切れた構図が何度か出て来るが、奇をてらった感じがするだけで、どういう意図なのかわからない。「ザ・ヤクザ」「ミッドウェイ」「ダイ・ハード」等の日本人役で知られるベテランのジェームズ繁田が、山本たちのLAでの組織の会計士として登場するが、こういうキャラクターは妙にリアルである。
Rating: ★★1/2

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